第7話
王子が再び姿をあらわした頃には、ぽつり、ぽつりと辺りが湿り始めていた。
無言で王子は俺の隣に座った。
「おふくろさんには、会えたのか」
俺の言葉に黙ってうなずく。
「話はできたのか」
これまた黙って首を振る。
「…そうか」
先ほど案内してくれた村人から、王子の母が病に伏せった途端、故郷であるこの村に返されてきたのだという話は聞いていた。暗殺を恐れて城から遠く、信用できる身内のいる場所へ避難させたといえば聞こえは良いが、この小さな小屋を見ると、単なる厄介払いにも思えた。
俺が知ってる【あいつ】は妙に勘がよくて、色々なことをすぐに悟ってしまう。だから王子…こいつも全部わかってるんだろう。母の命がもう長くはないのだと。
俺たちはそのまましばらくの間、並んで雨が落ちるのを見つめていた。
俺は王子の頭を静かに撫でた。不躾だと怒るかと思ったが、王子は何も言わずに俺の胸に顔をうずめてきた。俺はその頭をぽんぽん、と撫でた。
胸の辺りが濡れているが、これは雨のせいだろう。
今はそういうことにしておく。
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