時空を超えて迷子になったはなし
エンプティ・オーブン
第1話
「どこだ、ここは!」
常日頃迷いグセのある俺ではあるが、そこはなんとかする男。いつもなんだかんだいってなんとかなってきた。だが、今回ばかりは何とかならんかもしれん。
行けども行けども、全く見覚えのない光景。
もう歩き疲れた。少し休もう。小川のある所へ出たところで一息つくことにした。
水を汲もうと伸ばした華奢な手が、ついぞ見慣れぬものであることに、ここでようやく気付く。
慌てて川の中の己の顔を覗き込む。
「誰 だ こ れ は !!?」
俺の叫びと連動して動くその顔は、見慣れた己の猫面とは程遠い、全く見覚えのない顔だった。その装備からすると、こいつはどうやらヒューマンの冒険者のようだ。頭部以外に全然毛が生えていないので、服を着ていてもなんだか裸でいるようで心もとない。呆然として、そのまま仰向けに倒れこむ。一体俺はどうなってしまったのか。
途方に暮れていると、かすかにすすり泣く声が聞こえてきた。まだ幼い子どもの声。こんな状況で他人に世話を焼いている暇などないのだが…しかし「なんとかする男」の性分が、俺を声の方へと向かわせるのだった。
声の主は、まだ年端もいかない子どもだった。こんな人っ子一人いないような場所にそぐわない、やたらと豪奢な身なりをしている。どっかの貴族か豪商の子どもが迷子にでもなったか。
「おい、大丈夫か」
俺が声をかけると、そいつはビクッと体を震わせてこちらを見た。俺がそばに来ているのに気づいていなかったようだ。
「な…なんだ、ぼくに何か用か」
自分はべそべそ泣いてなんかいませんでしたが?という態度を取り繕おうと、そいつはいじらしく、精一杯虚勢と胸を張っている。
顔を上げたそいつを見て俺は思う。あれ?こいつどっかで見たことあるような…
「いやあ、迷子にでもなったのかと思ってな」
そういう俺が迷子なんだけどな。
「ぼくは迷子なんかじゃない。道中で休んでいただけだ」
「ほう?こんな身分の高そうな坊ちゃんがお供もつけずにか」
「供がいてはだめなんだ。わけはいえない」
それだけ言うとまた顔を伏せてしまった。
ま、子どもでもワケありっていうことはあるよな。これ以上詮索するのは野暮ってもんだ。
「そうかい。邪魔して悪かったな。くれぐれも気を付けてな」
俺はそいつの前から立ち去ることに
す る わ け が な い だ ろ う が 。
「・・・って、なんでついてくるんだよ!」
振り返って子どもが俺に怒鳴る。
「いやあ、実は俺が迷子なんだよな。だからとりあえず道がわかってるやつについてかせてもらおうかと思って」
俺はへらへらと笑いながら言った。
「大人のくせに」
「うん、大人でも迷子になるときはなるもんなんだよ」
「しかたがないな。目的地に着くまでの間だけ、一緒についてきてもいいぞ」
「へへ、ありがとうございます」
警戒しつつも受け入れてしまうあたり、まだまだお子様だな。だからこそ放っておくことはできなかった。どう考えたって、こんな子どもが一人で郊外をうろついてたらロクなことにならない。危険すぎる。それに、現状俺も行く当てないしな。これでとりあえず目下の目的はできた。
というわけで、俺はこいつの行先に同行させてもらうことになった。それにしても、こいつ誰かに似てるんだよなあ・・・ま、いいや。
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