第6話

「いやっふぅーーー!」

俺が突然歓声をあげて踊り出したので、子どもはドン引きして俺のことを白い目で見ている。

が、それでも俺には踊らねばならぬ理由があった。

「仕方がないだろ、このキノコを見つけたら踊らなければならないことになってるんだから」

そう、これはこの世にも美味なキノコに出会えたことに感謝を捧げる踊りなのだ。

その名も「ウキウキノコ」。

見つけたものは嬉しさにウキウキして踊り出すことからその名がついた。

「ぼくは、キノコは食べない」

子どもは仏頂面でそっぽを向いた。ものすごく耳慣れたフレーズ。


「その言い方、キノコ嫌いな俺の相棒にそっくりだぜ」


俺が急にいなくなって、相棒どうしてるかな。もしかすると俺の身体はそのままあっちにあって、中にこの身体の持ち主が入ってるなんてこともありえる。

・・・なんてことに思いを馳せていると、子どもが口を尖らせて反論してきた。

「ぼくは、嫌いだから食べないんじゃないぞ。熟練した者でも時々間違えて毒キノコを食べてしまうという。リスクが高いものは初めから口にしないのが安全だ。それに」

毒キノコが混ざっていたと偽って、毒を盛るのも簡単だから。

その一言で、俺はピンときてしまった。

「お前さん、やっぱし王族の子どもだな」

荒野に似つかわしくない服装。尊大な口調。端々に感じる教養。城の人間と交流がある。

今までの状況から薄々予想してはいたが、今の言葉でそれは確信に変わった。

「まあ、ワケありのようだから俺からは詮索はしねえよ。言いたくなければ、何も言わなくていい。ただ、無理に隠そうともしなくていい。俺はお前さんが誰だろうと、今まで通りに付き合うだけさ」

再び黙りこくってしまった子どもに、俺はそう言った。

なんだか、こいつのことが他人に思えない。そもそもお節介を焼きたくなったのも、そのせいだった。今気づいた。

「お前さん、俺の相棒にそっくりなんだよな。だからなんか放っておけなくて」

喋りながら、小刀で木の幹からウキウキノコをそぎ落としていく。

「そいつも、お前と同じ犬の獣人で」

あっという間にキノコの山が積み上がる。

「元々はお前さんみたいに、とある国の王子様だった」

きれいに洗った木の枝にウキウキノコを串刺しにしていく。

「顔だちも、その顔の模様も、ほんと瓜二つなんだよな」

火をおこしながら、はたと思い至る。

「もしかしたらお前さん、あいつの親戚かなんかだったりしてな」

俺としては軽口のつもりだったが、子どもは真剣な眼差しで俺に問いかけてきた。

「そのひと、何ていう名前?」

俺は、相棒の名を口にした。そのとたん、子どもの顔色が変わった。

「なんで・・・」

凍り付いた表情で、その声は震えていた。


「・・・なんで、ぼくの名前と同じ?」

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