私たちの心と頭に『ポリアモリー』という性別を超えた特別な関係について投げかけてくる、とても興味深いテーマのひとつを取り上げた希少な小説です。
恋人として一緒に過ごす曜日を限定する――付き合い始めの大切な約束を結ぶところから始まります。
しかし、物語が進むにつれ、お互いに働きかける思慮や独占欲……訪れる出会いと別れとが複雑に作用し合い、読者を飽きさせない工夫が素晴らしいです。
異なる心の在り方の中で芽吹いていく恋と愛。様々な想いと行動とが複雑に絡み合い、ほつれ、結び付きを強くしていくように縒り合っていく。この駆け引きがなんとも言えない魅力に映ることでしょう。
特筆したいのはポリアモリー同士の社会的な距離が近いことですね。これは物語の展開を設定する醍醐味の一つと言えそうです。
それらを一望に俯瞰する読者目線からは、キャストどうしの相互作用が引力とも斥力とも取れるため、緩急含めた面白さがこそばゆく感じるかもしれません。
さらには、作者様ご用達のチェコ文化の異国情緒を取り入れた興味深い思索的な融和も事欠いてはいけません。
物語をさらに深化させるための意匠が凝らされ、美しい旋律の調べと味覚の奥行きとを探求した心と舌を撫でていく楽しさもひとしおです。
最後になりますが、一人の男性に及ぼし合う複数の恋のパワーバランスが絶妙なんです。それに洗練された流麗で美しい文章と繊細な心の機微の描写は至高の領域を思わせる。
私から是非ともオススメしたい珠玉の一作です。
ポリアモリーの輪に含まれる四人の人物。
彼らはそれぞれ、未知の関係性に手探りで挑む者、許容の先に新たな連帯を持とうとする者、拒否する者、と抱える状況が異なり、様々な愛情のアプローチとして重層的に展開されます。
また、彼らを取り巻く人々には、奪われる事とその憎しみや、理解を抱く者の姿もあります。
我々の多くは、恋愛の当事者と傍観者の両側面を持ち合わせる機会があると思います。
この作品は、当事者である場合は、関係を保つために相手を尊重する距離感を、傍観者である場合は、余所事には批判も指摘もアドバイスも基本的にはいらないものだ、と教えてくれます。
愛情の形を考えさせられるお話です。ご一読ください。
当作品の大切な要素であるポリアモリー。関係者全員の同意のもとに複数のパートナーと恋愛関係を持つことに対して、あなたはどう思うだろうか? 複雑?混乱?ひょっとすると不道徳?
しかし考えて欲しい、他人ではない特別な人同士であるためには何が必要だろう? 独占や束縛、あるいは曖昧模糊に過ぎる社会的規範や法律などではないことは明らかだ。きっとそこに必要なものは「信じること」と「尊重すること」の二つだけで、それらがお互いに必要十分条件として機能していればそれで成立するのではないだろうか。
そう考えた時に、本作品の作者が提示するポリアモリーという生き方は、三人の恋人の間で多少の解釈の違い・領域のずれはあっても、極めてシンプルであることに気付く。私たちがいわゆる「普通」の恋愛と考えているもの、それはかえってシンプルさを損なっていないだろうか?
大切な人との絆について深く考察させてくれるこの作品。ぜひお読みいただいて、かけがえのないものを失わないための道標にしてほしい。
自分は、ポリアモリーという言葉を、「茶房カフカ」を通して初めて知りました。
ググってみると「複数のパートナーと合意の上で恋愛関係を築くスタイル」という説明がありました。
この作品では、ヤマシロさんを中心に、コンパル、ヨシアキ、トキワがそれぞれヤマシロさんと恋人関係を結んでいるという形で、このテーマが描かれています。
物語は、コンパル、ヨシアキ、トキワ、それぞれの視点で展開されていきます。
ヤマシロさん自身がその内面を語ることはないため、恋人たちの語りを通して、彼がどんな人となりかを読者は知ります。
自分が連想したのは、木彫り?です。
三人がそれぞれのみを手に取り、木を彫り、形を整え、ヤマシロさんという像を伝えてくる感じです。
「茶房カフカ」を読んでいると、「なるほど……」とか「そっか、そう感じるのかぁ」とボソボソ独り言を言いながら読んでいることに気が付きます。
価値観の幅を、最高にグイグイと広げてくれました!
全編を通して作者さまのチェコ愛に溢れています。
物語に出てくるチェコの音楽。幾度となく、YouTubeで同名の音楽を検索し、登場人物らと思いを共有しようとしたのはいい思い出です。
素晴らしいお話をありがとうございましたーーー!!(*´ω`*)