おとぼう鯰(なまず)。
普通の鯰に見えますが、実は妖怪で、人の秘密まで喋れる鯰なのです。
女子中学生の音和は、いきもの係。
教室で飼われることになった鯰の世話をするため、夏休みなのに学校に行かねばなりません。
そして、世話される鯰は、音和にだけ語りかけてくるのです。
おとぼう鯰だから。
おとぼう鯰は、音和にどんな秘密を語るのでしょうか。
そして、おとぼう鯰の正体と、鯰によって引き起こされる事件とは。
軽い気持で読み始めても、むむっ、これは! と思わず真剣に読み込んでしまう、興味深く、切なく、面白い物語です。
作者さまの筆力や感性の素晴らしさに感嘆します。
ぜひぜひ、おすすめします。
喋るナマズ?ナマズと恋!?一体どんな話なんだ!と読み始めて見れば、想像していたものを良い意味でひっくり返されました。
物語や言葉に込められている情報・情念が非常に多く、強いです。人間の業や切実な思い。描かれる数多のことがぐぐっと胸に迫ってきました。のし掛かってきた、と言っても良いかもしれません。
様々な要素は互いに絡みあい、意味を引き出しあい、「夏」によって見事にまとめあげられています。不思議、幻想的、儚さ、温度……他にも、どれも夏だからこそ、この時期だからこそ、描けるものだと思いました。
受け取るものが多すぎて、全てを言葉にすることは到底できません。言葉にすれば伝えられるというものでもありません。
そういった繊細な数々を、ぜひ多くの方に実際に読んで、感じていただきたい作品です。
小説として扱い難く、書きにくいと思われる鯰(なまず)。その掴みどころのない存在を【喋る鯰】という新しい切り口で読者にシュールな印象を強烈に与える、先鋭的な感性が織り成す斬新な物語です。
――喋る鯰の正体とは?
生まれ変わり、輪廻、因果応報……物語に深みをもたせつつ、お盆特有の幻想的な施しも味方につけ、物語に上手く落とし込んでいる点もとても素晴らしいと思います。
犯した罪人にくだる天の災いが激甚で、至らしめる澎湃たる末恐ろしさが同居したスリリングな展開も見逃せません。
夏に飽和しかかった読書感覚を塗り替えて新たに払拭されるような印象を受けるかもしれません。捉えようにも、捉えられない――まるで鯰をつかむような感覚にあなたの心は翻弄されることでしょう。