第8話 グリーンの逃亡
奴隷達が休まず火薬を運び続け朝日が昇った頃。
「ふぁ~~!!」
豪華なベッドから裸のグリーンが起き上がった。
毎日遊び惚けていたせいかグリーンの体は探検隊をしていた時よりだいぶ贅肉がつき、王妃と同じブタ体系になっていた。
「あ? そうか、明日はあの島に行くのか、あの船たち」
丘の上に建てられた屋敷の大窓から港が見えた。人が蟻のように小さく見え大船の周囲で作業をしている者を見て「おぉ~蟻達がせっせと頑張ってるね~~」とつぶやいた。
国に利益をもたらしたグリーンは金と権力がありもう働く必要などない。
最近、国中で蟻の被害が出ているがグリーンは殺虫粉を大量に買い占めて独占していた。
屋敷の中や周囲に殺虫粉を常に撒き続け蟻を寄せ付けないようにしていた。
「それにしても、蟻どものおかげでだいぶ儲けたな~~」
豪華な朝食を摂りながらグリーンはつぶやく。
国中に蟻が増殖し急いで殺虫粉を独占した後、他の貴族や金のある者に何倍もの値段で売り私腹を肥やしてきた。中には殺虫粉と言いながらただの塩を売りつけ搾取していきグリーンの懐が膨れ上がっていた。
「あの、グリーン様、お食事中に申し訳ございません…」
「ん、なんだ?」
身の回りの世話をしている老年の執事がグリーンに耳打ちした。
「は? 出発式に向けてのパーティ?」
「はい、明日例の島に行く軍の英気を養うために、本日城にてパーティがあると…」
「ほぉう? 俺たちが船に乗せられた時はそんな式はなかったはずだが?」
何故か緊張している様子の執事を見てグリーンは目を細めた。
既にグリーンの嘘の報告はバレていた。
グリーンと一緒にいた手下達が小島での出来事を周りに話してしまった。
小島には野蛮人などおらず、レッドとブルーそして仲間達は蟻に殺された事。
グリーンが仲間達を見捨てて資源や女を手に入れて国に献上し手柄を独り占めにした事。
船の中で殺虫粉を使い処分したはずの蟻が生き残っていて、国に蟻を運んでしまった事。
話が王や貴族達の耳に届き怒りに震えて、グリーンを逮捕するために罠を仕掛けた。
グリーンを普通に逮捕しようとすれば、金や権力で何をしでかすか分からないため、パーティで逮捕しそのまま何も発言も権力も使わせないように牢に入れ拷問した後に処刑しようとしていた。
だが、グリーンは既にこのパーティには何かあると気づいていた。
「そろそろ潮時か…」
グリーンは朝食を切り上げ部屋に戻ると使用人を呼び出した。服を着させ屋敷の外には大きな荷物が入るように改造された馬車が用意されていた。
「あの、グリーン様? あの馬車は一体?」
城にいくなら大荷物を入れる馬車は馬の脚を遅くするだけなのに、あれではまるで遠出をするみたいだと執事が思っていると
「それでは、後の事はまかせた」
散々コキ使ってきた執事に短く伝え、グリーンの乗る場所は走り出す。
グリーンの乗せた馬車は城へは行かず、国外へ通じる道へ進んだ。
馬車の荷物入れには国に献上せず自分の懐に入れていた、あの島で手に入れた鉱石やこれから先暮らしていくための厚手の服に短銃や殺虫粉などが入っていた。
グリーンは悪運が強くこれまで何度も危機を乗り越えて来た。
小島でもレッドとブルーが互いに小競り合いをしている時にグリーンだけ大船にいた。
虫が嫌いで殺虫粉を振り撒いて大船で過ごしていたら自分だけ助かり手柄を独り占めにすることができグリーン自身は悪運でなく幸運の神が付いていると思っていた。
「あの口の軽い馬鹿どもが…」
せっかく嘘の報告書を出して助けてあげたのに手下達が島での出来事を口外してしまったせいで、自分に対しての風当たりが強くなり逃亡計画を立てる羽目になった。
「さぁて、こんな蟻だらけの国なんておさばらだ。せいぜい蟻どもの餌にでもなってろ馬鹿ども」
国外へ通じる道の関所の者は皆、金で買収しており誰かに襲われる心配はない。それに大量に買い込んだ殺虫粉は自分の体と馬車にまぶしており蟻対策も完璧だった。
既に逃亡先の国で屋敷を購入しており、殺虫粉の高額転売や偽物を売却して手に入れた大金で住処を確保していた。
この国は蟻のせいであらゆる業界が被害を受け国の経済も傾いている。このままいけば国民の怒りが爆発し貴族や王を倒せと革命が起きるだろうとグリーンは予測していた。
蟻に食われようが革命で何人死のうがグリーンには関係ない。
逃げた先で贅沢三昧の生活が待っている。それに逃亡先の国には自国の政治内情など情報をあげる約束をしてグリーンは完全に国の反逆者だった。
「それと…君にはもっと楽しませてもらうよ、クロ」
「…」
グリーンの前の席には下着に近い薄い黒い服を着たリアがいた。
他の女達と比べスタイルも良く若いリアをグリーンは気に入り、国に献上せずクロと名前をつけて自分の手元に置いていた。
首に太い首輪と鎖を付けられ簡単な言葉を覚えさせ身の回りの世話をさせていた。
自分の恋人を殺した男の仲間の世話をさせられてリアは死にたいと思ったが、仲間の女達のために心を殺して命令に従い続けた。
「…」
「おやおや、ご主人様が話しているのにだんまりか…まぁ、いい。次の国にも殺虫粉は大量にあるそうだから、これで蟻共とはお別れだ」
グリーンの言葉にリアの目つきは強くなる。
この男や国は自分達の慕う地の神を侮辱している。
「ユート…」
ユートに会いたい、寂しい苦しい。
リアの瞳に怒りと恨みがこもっていた。
この男と国に神の裁きを。
リアの心の中に黒い怒りと復讐心が滾る中、馬車は国を出ていく。
時間は過ぎていき夜が深まる中、国中に蠢く黒い物たちが動き始めた。
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