第5話 強悪運のグリーン
ブルーを半殺しにした男達は小舟を必死に漕ぎ大船の近くまで辿りついた。
「おい、どうした!? なんで船から縄が降りてこねぇんだよ!!」
大船の周りには島から脱出してきた小舟達がいた。
このまま大船が前進してしまえば自分達は置いていかれてしまうため男達は大船に向け乗船させろ、縄を降ろせと叫ぶが大船から大砲の発射音が鳴り響く。
「ぐぁぁ!!」
巨大な砲弾が小舟を砕き、小舟に乗っていた男達が海に沈んでいく。
大船からの砲撃に小舟に乗っている男達は恐怖した。そして、大船に装備されている大砲が全て小舟に向けられていた。
「や、やめ…」
命乞いの声は大砲の発射された轟音でかき消された。
「俺らを見捨てないでくれぇ!!」
「た、助けてくれぇ!! お、俺には蟻はついてない!! 大丈夫だから!!」
「早く、俺たちを上げてくれぇ!!」
鋼鉄の弾丸は容赦なく男達を狙い砲弾に直撃して即死する者もいた。
中には小舟を捨てて泳ぎ大船の船縁にしがみつきよじ登ろうとする者もいた。
「いけないぁ、危険な物を船に入れられると困るんだよ」
全身に白い粉がかかった緑色の豪華な服を着た男が甲板にいた。
船縁にしがみつきよじ登ってくる男達を冷たい目で見ると手下達に命令する。
「ほらほら~~早く彼らを海に落としなさい。でないと、次に蟻に殺されるのは君たちだよ?」
「は、はい…」
グリーンに指示されて手下達は槍を持ち船縁にしがみつく男達に向け矛を伸ばした。
「や、やめろぉ!! 俺たち仲間だろうが!! はやく、はやく上げてくれ!!」
「島から離れたんだ!! 俺たちを助けろよぉ!!」
大船は既に風を捕まえて速度を上げている。
強い波と風にさらされながら、男達は船に上がろうとしたが、船上で槍を持った者達に矛を向けられて上がれずにいた。
「何を言ってるのかな? 君たちの体に蟻が付着していないって根拠はどこにあるのかな?」
小舟で来た者の体に万一、蟻が付着していたら船の中に逃げ場などない。
先に小島から逃げてきた手下の男達は既に処分しもうこの世にいない。
後は船縁にしがみついている男達を処分すれば安全だった。
「や、やめろぉ!! 落ちる!! たすけぇ…うぁぁ!!」
強風と波に当てられて男達は海に落ちてしまった。
海に落ちた男達は助けて、お前ら地獄に堕ちろと叫びやがて声が聞こえなくなった。
グリーンに見捨てられた彼らは遭難し朽ち果てたのか殺人蟻のいる小島に戻ったかグリーン達の知る由もなかった。
「ふぅ~~これで邪魔者はいなくなった訳だ」
多くの手下やレッド、ブルー達を見捨てたのにこの男だけは罪悪感も良心もなかった。
むしろ邪魔な物が消えて清々しい様子だった。
「さて、僕は陛下達に向けて報告書を作りますね…レッドやブルーそして他の仲間達は凶暴な者達に殺されたと」
大船に残っている手下達はグリーンの提案に乗る事にした。
本国へ戻り仲間達が蟻に殺されたなど報告をすれば誰も信じてもらえない。
貴族であるレッド、ブルーを死なせてしまったため手下達にはどんな重い罰が下るか恐怖でしかなかった。
蟻に襲われる恐怖と本国へ帰った時の処罰の恐怖に漬け込みグリーンは彼らをコントロールすることができた。
お前達の罪を軽くする報告をしてやるから自分の命令を聞け。
始めはグリーンの命令に拒否感はあったが、島で仲間達が蟻達に殺された光景を見て我が身可愛さにグリーンの命令に従い仲間達を見殺しにしてしまった。
「殺虫粉を船内と奴隷たちにかけなさい。いいですか、蟻が残っていたらこの船にいる者は全員死ぬんですからね」
船内の床には塩のような粉が巻かれていた。粉の正体は虫殺しの殺虫粉で既に船内に潜んでいた蟻達の死骸が無数に落ちていた。
蟻に殺されたくない一心で部下たちは急いで殺虫粉を船内に撒き始めて、グリーンは自分の部屋に戻った。
「ふっははは!! 上手くいった!!」
グリーンは柔らかいベッドに飛び込み、汚い笑みを浮かべた。
「あっはは!! 馬鹿なレッドと頭でっかちのブルーがやっと死んでくれたぁ!!」
前々から目障りだった二人が死に、自分だけ国に献上する品を手に入れることができた。
レッドとブルーの部屋をぶち抜いて島から運んでいた鉱物や食料など置かれており、船底の牢屋には島にいた若い娘達を入れていた。
「あんな小島に蟻の化け物がいるなんて思わらなかったが、そのおかげであのクズどもの手下もコマにできたし、後は馬鹿な王や貴族どもに資源をくれてやれば全部僕の手柄に…」
地位も名誉も手に入り、二度と探検隊に行かされる心配はない。
王達への報告については、豊かな島を見つけたが凶暴な現住人と遭遇し彼らの怒りを鎮めようとしたが言葉の通じない野蛮人のせいで貴族の二人と多くの手下を失った。逃げる最中、どうにか良質の資源と何人かの捕虜を捕まえるのがやっとだったと報告すればいい。
確認のため国から別の探検隊が派遣されても蟻達が処理してくれればグリーン達の嘘は誰にもばれない。
「くぅ…」
自身の安全と保障が確定し安心してグリーンは眠り、手下達は捕らえられた女たちに向け殺虫粉を振りまいていた。
「あぁ、こんなにいい女がいやがるのに…なぁ、一人くらい…」
「よせ、こいつらは大切な商品だ。傷がついたら価値がさがって俺らの取り分が減るぞ」
「ちっ…せっかく楽しめると思ったのに!! ほらよぉ!!」
半裸の女たちは苦い殺虫粉をかけられて、むせこむ。
それでも、女達の心は折れておらず男達を睨む。
この先どんな屈辱や地獄が待ち受けようが、自分達には地の神がついていると信じていた。
「ユート…」
捕らえられている女達の中にボロボロのリアがいた。
目の前で恋人のユートを殺されて、身を男達に汚されて心も体もボロボロだった。
ユートのいないこの世界で生きていく意味などない。
ユートのいる天国へ自分も生きたいが、他の女達から
「死んでは行けない」「私たちには神がついている」と励ましの声を受けて何とか思い留まっていた。
「神様、お願いします…ユートにもう一度会わせて…」
ユートに会えるならこの身はどうなっても構わないと必死に祈る中、リアの長い髪に潜み殺虫薬から逃れた黒い蟻が牢屋の外に出た。
しばらくして船内中に殺虫粉を振り終えた手下達は食糧庫からワインや肉を持ち出して貪っていた。
中には自身の将来が守られた事に対して喜びを上げる者や一緒に過ごしてきた仲間達を見殺しにした罪悪感を忘れるために酒に酔う者がおり船の航行を真面目にする者は少なかった。
侵略者達は蟻を駆除し安心しきっていたが小島から持ち出した鉱物や食料の中から数匹の蟻達が姿を現す。
すぐにでも愚かな侵略者達に攻撃したかったが、猛毒の殺虫粉のせいで蟻達は動けないでいた。
生き延びた蟻達は殺虫粉で死んだ同胞の死骸を食らう。
殺虫粉の毒が体に回り弱弱しくなるが、それでも毒で死んだ同胞の死骸を食らい続けた。
まだ、動く時ではない。
自分達を敬い祭ってくれた者達の復讐を叶えるため、今はまだ準備の時だった。
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