第4話 逃避者ブルーの末路 

「いだぃ、いだぃ、お、置いてかなでぇぐぇ!!」


 大量の殺人蟻により侵略者たちは追われていた。


 現住人を守るように蟻たちは侵略者たちを鋭い牙で皮膚を食い破り、強酸で皮膚や骨を溶かして跡形もなく食らい尽くした。

 

「うぁぁぁ!! あ、蟻が、いでぇぇ!!」


「いでぇぇ、そこは、やめろぉ!!だ、だずげ…ぎぃぃぃ!!」


 蟻が男達の股間に入り込み、大切な性器にかみつく。


 蟻を叩き潰せば死骸から強酸が出るため、慎重に引き剥そうとするも蟻の顎は強力で離れない。


 股間に噛みついている蟻を引き離そうとしている内に、他の蟻達が耳の穴に入り鼓膜を食い破り、口の中で舌や歯肉も食い破かれて深紅の血が流れていく。


「うぁぁぁ!! はぁ、はぁ!! にげろ!! 船まで逃げろ!!」


 肉も骨の欠片も残さず溶かされてしまった仲間を見て男達が武器を捨てて逃げた。


 蟻に襲われて助けの声を上げる仲間の声を無視して、男達は小船を目指して逃げる。


 地面にできた穴から蟻達がどんどん出現し逃げた侵略者たちを海に追い立てていき、現住人達は自分達を守るように動いている蟻達を見て涙を流し叫んだ。


「神よ私達をお救いください」と叫ぶが侵略者たちに彼らの言葉はわからなかった。


「うぁぁ!! あ、蟻がぁ!! 蟻がくるぅ!!」


「おぃ、馬鹿野郎!! 早く船を出しやがれ!!」


 男達が浜辺に置いていた小舟を押して海に出ると、大船に向けて必死に小舟を漕いで逃げていく。


 まだ、島に残っている仲間たちから「戻ってこい」「裏切り者!!」と声が上がるが、大舟に先に到着した彼らは、船員らに島での出来事を伝えると出港準備を始めた。


 本国から小島まで3日かかる距離があり、小舟だけで海にでれば間違いなく遭難して飢えて死んでしまう。今も大船に向かっている小舟に乗る男達は置いてかれないように必死に漕いでいた。


「これは夢だ、現実じゃない。そうだ、これは夢のはずだ…あがぁ!!」


 レッドを見捨てた逃げたブルーは浜辺に向かう途中で大きく転んだ。


「つっ、あ…」


 今まで家で甘やかされて育ってきたブルーは転んだ痛みで半泣きになっていた。

 

 面倒な事があれば手下達にやらせてきたが、その手下達は蟻に食われてもうこの世にはいない。

 

「ひぃ!!」


 背後からアリの大群が迫り、右手から血を流しながら浜辺に向かって走るブルー。


 転んだ痛みですでにこれは夢じゃないと気づきつつあるが、それでもプライドの高さと幼稚な精神のせいでこれは夢と言い続けるのであった。


 小さな森を抜けて海辺に出たブルーは大船が反転して島から逃げる準備をしている事に気づいた。


(私は泳げないんだぞ,,,こ、こんなところで、死にたくないぃ、わ、私は生き延びるんだぁ、こんな所で死ねるか!!)


 これは夢のはず、いつか覚めるはず。そう、自分に言い聞かせていたブルーだが、背後から迫ってくる地面を黒く染めている蟻達を見て恐怖に震えた。


「く、くるなぁ!!」


 最後に残った単発銃を蟻の群れに向けるが右手の痛みでうまく銃を持てず地面に落としてしまった。銃を拾うとしたブルーだが自分に向かってくる黒い塊たちを見て声を上げて逃げてしまった。


「あっ、あぁぁぁぁぁ!!」


 単発銃を捨ててブルーは浜辺にある小舟に向けて走った。

 

(嫌だぁ!! 嫌だぁ!! 死にたくない!! 探検隊にさせられて国から追い出されて、こんなところで死ぬなんて僕は嫌だぁ!!)


 迫る死の恐怖によりこれは夢じゃないと認めたブルー。


 レッドとグリーンと違い賢い自分がこんな所で終わるはずはないと、何度も心の中で唱える。探検隊と言う名の島流しにされたのは無能二人のせいだと、自分の事を棚に上げていた。


 本国で自分の賢さを武器に勝手に金を動かし、政治を混乱させた罪など全く自覚していなかった。ブルーのせいで後処理に時間も労力を取られた時もあり、被害はむしろ脳筋のレットの方がマシだった。


 ブルーは浜辺に残った最後の小舟まで辿りつくが、手下の男達が小舟を奪うために殺し合いをしていた。


「船を俺によこせぇ!!」


「うるせぇ!! おめぇ邪魔だ!!」


「お前が邪魔だ!! 死ねぇ!!」


 最後に残った小舟に男達が群がっていた。小さな小舟で何十人も乗れば沈むため、命惜しさに男達は現住人を殺すのに使っていた剣や斧で昨日まで同じ飯を食った仲間を殺して、血と肉片が浜辺に浮かぶ。


 蟻の軍勢が浜辺に近づいてきてブルーは海と蟻を交互に見て恐怖でまともに声がでない。


 このまま小舟に乗れず蟻に食われて死ぬか、泳げないのを承知で溺死するか。


(は、はやくこの馬鹿どもをどかさないと、そ、そうだ、僕にはまだ銃が…)


 死の選択が迫りブルーは腰に手を伸ばし単発銃を取り出そうとしたが、単発銃はなかった。


「あ!? じゅ、銃がない…」


 ブルーは逃げている途中で落としたのと、レッドが蟻に襲われた際に落としていたのを忘れていた。

 

「うぁぁぁ!! 蟻が、蟻がくるぅ!! お、お前たち!! わ、私を助けたらいくらでも褒賞を出す!! だから、私を船に乗せろぉ!!」


 屈強な男達を黙らせる武器を失いブルーは涙と鼻水を流し手下の男達に命乞いをした。だが、男達の返事は声でなく暴力だった。



「この野郎ぅ!!」


「いつも俺らをコキ使いやがって!!」


「ふざけんぁ!! てめぇが蟻の餌になってろ!!」


 屈強な男達の拳がブルーの鼻と頬の骨を砕き顔が変形していく。


「い、いだぃ…ひぃだぃ…」


 その後も手足を折られて重症を負わされて動けなくなったブルーは浜辺に置き去りにされて、目の前で最後の小舟が大船に向け進んでいた。


(ま、まって…金ならだす…なんでも、する、から…わたしを、おいてかないでぇ…)

 

 心の中で助けてと叫び離れていく小舟に向け叫ぶがブルーの体は蟻達に包まれた。


「あ、あぁ… うぁぁぁぁ!!!!」


 耳の中に蟻が入り鼓膜などの器官が食われて何も聞こえなくなった。


 (た、たすけ…ひぃ!! 耳に蟻が!! いやだぁ、 あぁ、ありが、ありがぁ…)


 眼球の神経を強酸で溶かされ失明し、強酸と血の混じった赤黒の涙が流れ何も見えなくなった。


 脳の血管や神経も食い破かれ溶かされて、蟻の入り込んだ穴から体内器官だった物の液体が流れていく。


(いやだぁ、いだぃ、いだぃ、ぃだい!!)


 耳も目も使えなくなっても体内を破壊される痛みでブルーの心は壊れていく。


 (いだぃよぉ!! 誰が!! だずげでぇ!! いだぃ、いだぃ、痛い!!)


 尿をためる膀胱を蟻達が食い破り、黄色い液体が体内に漏れていく。

 

 心臓や血管を食われ血を啜られていく。


「ごぼぉ、がっは…」


 全身に強酸が回り臓器の全てを溶かされてブルーは吐血しやがて動かなくなる。


(い、だ、ぃ)


 最後まで苦痛の叫びを心の中で上げたブルーは誰にも助けてもらえず、蟻に全身を食われ骨の欠片も残らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る