3章 北の国へ
第17話 地の神の信仰
蟻により国は崩壊した。
強欲で傲慢な権力者や下賤な者は蟻に食われた。
国に残ったのはまだ善意のあった国民と奴隷達だった。
愚かな権力者達から解放され自由を手にしたが人々は蟻に対して恐怖を抱いていた。
これまで他国を支配してきて敵視されてきた自分達に行き場がなくこの国にいるしかなく、国に残った者達は「この蟻達はいつ自分達を食らいにくるか」びくびくしながら過ごししかなかった。
道を歩いて気づかず蟻を踏んで殺してしまい、悲鳴を上げる者もいたが蟻達は自分達に敵意のない者は無視していた。
港の一角に島から連れて来られた女達が集められており、彼女達を生かすために蟻に寄生された蟻人間達が水や食料を運ぶ。
「ありがとう、ございます」
「地の神様…」
島でずっと信仰してきた神に助けられて女達は頭を深く下げた。
「おおぉ!! こんなところにいい女がいるじゃねぇかよ!!」
蟻人間達を押し倒し、武器を持った市民が女達に近づく。
自分達を支配していた貴族達がいなくなり、これまで抑圧された鬱憤を女達で発散しようとしていた。
「そんじゃ、さっそく俺らと遊ぼうぜ」
男が太い腕を伸ばし女の胸を掴もうとしたが、男は悲鳴を上げて地面に倒れた。
「いでぇぇぇ!! あ、あしがぁ!!」
レッドと同じように蟻に両足を食われそのまま全身を食らい尽くされた。
「う、うぁぁぁ!! に、にげぇ…」
逃げろと叫ぶ前に他の男達も蟻に包まれてこの世に骨も肉も欠片を残さず死んだ。
これまで女達には手を出した者は全て蟻に殺されてしまった。
そのため、あの女達には決して手を出してはならない、と人々の中で暗黙の了解が生まれていた。
蟻達が女達を守る中、蟻人間達は爆発により粉砕した船の残骸を片付けていた。
蟻人間達の手で国中から船の制作に使う木材や工作具などが集められていく。
船の制作に関わる者達も既に蟻人間となっており、船の制作が始まった。
蟻人間は脳に寄生した蟻により神経や感情も支配されており、飲まず食わずで餓死寸前まで働かせることができた。
肉体が限界に来て動かなくなったらまた別の人間に寄生して船の制作にとりかかる。
白目の暴徒たちの作る船を欲しがる者もおり、強奪しようとした者は蟻人間にされて肉体が壊れるまで船の制作をさせられた。
「地の神様、ありがとうございます」
女達は蟻人間達が自分達のために船を作っているのに気づき何度も頭を下げて感謝のことばを告げた。時折、この国で覚えさせられた言葉を発しして国民に聞かれていた。
あの蟻達は彼女達が信仰する神であり、おかげで腐った権力者や暴漢達を殺してくれた。
国民の中に感謝や恐怖の混じた地の神の信仰が生まれ始め蟻達を阻害する者はいなくなり蟻達は国を支配できた。
神の力は生物の血肉を食らい力や知識を蓄えることができるが、食らうよりも人々からの信仰の方がより力を得ることができた。
多くの人間を食らい信仰を集めることができた蟻達は地下深くまで潜り北の国に向けて穴を掘り始めた。
何十、何百もの蟻達が一点に集中して北に向けて大地を抉りながら進む。
地中にある動植物を貪りながら蟻のドリルは北へ、北へと進む。
途中、グリーンや御者たちに潰された同胞をも食らい蟻達は力を蓄えていく。
ひたすら固い岩盤を砕き一点に集中し大地の下を抉っていく。
(リア…)
蟻達と一体化したユートは力を求めていた。
リアを助けるために焦って寒さが弱点なのを見落とし、リアを助けられずグリーン達に羽蟻達を踏みつぶされてしまった。
悪運に恵まれているグリーンを始末しなければ、羽蟻達を嗤いながら潰したあの男は周りを不幸にする最悪の疫病神だとユートは思った。
(必ず…あの男だけは…)
国中の者の信仰を受け蟻達は強くなる。
穴を掘り進めていく途中で力つきた同族の蟻を別の蟻が食らい蟻達の体は鋼のように鍛えられた。
さらに、多くの動植物を食らい体中に良質の栄養が蓄えられて一匹一匹が大人の親指サイズ程大きくなっていた。
多くの血肉を食らい、知恵をつけた蟻達は
やがて、地中を掘り進んだ蟻達は雪の降る北の国に辿りついた。
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