第18話 北の国の貧困
常に雪が降る北の国。
冷たい風が吹き植物はあまり育たず、虫も地中から出ない極寒の地。
国は円状に作られた強固な壁に囲まれており、国の中心にいる者だけが厚いコートを着て住んでいた。
グリーンのいた国とはあまり関係は薄いが、この国も悪意を持つ者が多かった。
コートを着こんでいる平民や貴族は少なく、国の中心から離れた場所ではボロボロの衣類を着て寒さに凍えている貧民の方が多かった。
貧民街の土に穴が開いて数匹の蟻が地上に出た。
寒い北の地で蟻達の動きは鈍るが、穴掘りで鍛えられ大量に食らって蓄えた栄養のおかげで動くことができ、傍に倒れている死体に入りこむ。
「…だれか、たす、けて…」
蟻達が入りこんだ死体のそばに倒れている少年がおり、荒れた道路の端で空腹で倒れて生気のない目で冷たい雪が降る空を見ていた。
貧民街のあちこちにやせ細った死体があり、穴から出た蟻達は次々に死体の脳を食らい記憶と情報を得た。
一部の者しか豊かさを享受できず、コートを着た者は誰も貧困者を助けようとしない。
自分達が腹を満たせればいい、自分達だけ寒さを凌ぐことができればいい。
国の中心にいる者達はグリーン同様に邪悪な者がいた。
少年の周りにはやせ細った老若男女が倒れていた。
ある者は貴族や平民に助けを請いたが「汚い、触るな」と殴られ蹴られて殺されてしまった。
ある者は毒入りの食べ物を口にして亡くなった。
空腹に我慢できず店や家に忍び込み食料を奪う貧困者が多くいた。
店は防犯対策のために毒入りのパンを仕込み、心の歪んだ者は貧民者が毒で苦しむ姿を見たいとわざと見える所に毒入りの食料を置いて彼らの苦しむ姿をあざ笑った。
中には「狩り」と称し、貧民を動物に見立ててボウガンや銃で撃ち殺す者もいた。
「おなか…すいた…」
家族を失い孤独となった少年は小さな涙を流した。
「おぉ? このガキ、まだ生きてやがるぞ?」
豪華なコートを着たデブ体系の少年と護衛の男達が死にかけている少年を囲んだ。
「それにしても、こいつらくせぇな。まるで猫か犬の死骸みてぇな臭いだ」
貴族の少年が鼻を抑え、周りの護衛達が嘲笑う。
「せっかく新しい銃を買ってもらったのに…ちっ」
新しい銃の試し打ちのため狩りに来たのにせっかく見つけた獲物が死にかけでつまらないと舌うちした。
無様に必死に逃げて足を撃たれていたがる獲物の姿をこれまで何度も見てきた。
足を撃たれ血を流し痛がるっている所にさらに肩や腕など急所を外して撃つ。
獲物が拙い言葉で「助けて」「許して」と自分に必死に命乞いをする姿に支配欲、暴力性が満たされていき、楽に殺さないように苦痛だけ与えて最後に殺す。
時折、逃げ足の速い獲物もいるが護衛の男達も狩に慣れており逃げた獲物の足の骨を折り少年に渡して金を得ていた。
「まぁ、いいや。最近、入ったよそ者に女共を盗られてむしゃくしゃしてたんだ…」
デブ体系の少年は金の装飾がされた銃を倒れている少年に向けた。
(いや、だ、死にたく、ない…)
貴族による狩りで目の前で人が撃たれたのを見たことがあった。
銃は殺しの道具だと知っているが少年は空腹で立つ事もできない。
「動くなよ? 一発で頭にぶち込んでやるからよぉ?」
銃口が額に向けられる。
同じ貧困者達が良く口にしていた「神様、お助けください」の言葉を思い出し、少年の口がわずかに動く。
「かみ、さま…たす、けて…」
少年の言葉を聞いて、死体を食らっていた蟻達が動き出した。
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