第13話 鉄牢獄①

 王妃を見捨てて避難所に入った王達は王妃の断末魔を聞いていた。


「この、役立たず、クズどもがぁ!! さっさと、たす…げ、で…」


 扉の向こうで王妃の苦痛と助けを呼ぶ声がしたが王達は決して扉を開けなかった。


 散々、王である自分を顎で使い税金をケーキや宝石に使ってきた巨大なブタを助ける気などなかった。


 だが、斧やノコギリで王妃の体を解体する音が聞こえ、王妃の声が聞こえなくなり王や貴族の何人かが嘔吐してしまった。


「ぐぇ、げぼぉ…」

 

 扉の向こうで肉や骨を切る音が聞こえる。扉の向こうで何が行われているのか想像してしまい、王と貴族は恐怖で震えた。


 しばらく王妃の体を解体する音が続く。


「はぁ、はぁ…クソォ、一体何がどうなっているんだっ!?」


 王は怒声を上げるが一緒にいる貴族も蟻達が人間を操り暴動を起こしているなど知らなかった。


 「王よ、ここを開けてください。貴方たちには国を腐らせた責任を取って頂く義務があります」


 扉の向こうで血と肉に染まった従者達が王達に声をかけた。


「他国を侵略し、命を弄んだ罪を償うのであれば楽に死ぬことができます」


「出て来ぬならば、そこで…」


「う、うるさい!! この反逆者どもが!! 貴様らまとめて死刑だぁ!! ええぇい、騎士どもは何をしている。早く、私たちを助けろぉ!! 」


 蟻人間となった従者たちの声を最後まで聞かず、王は怒り狂って怒鳴った。


「くそぉ…ぜぇ、ぜぇ…み、水…誰か、水を持ってこい」


 声を上げて喉が渇いた王が護衛の騎士に水を持ってこいと命令するも、護衛の者は動かなかった。


「おい!! 聞いているのか!? 何、ぼっと、突っ立ている!! 早く、私に水を持ってこい!!」


 動かない護衛の者に痺れを切らせて王が怒鳴る。貴族達も何をしている、早く食料庫から水を持ってこいと命令するが護衛は動かない。


 護衛達は白目を向いて上着を脱ぐと導火線がついた爆弾を体に巻きつけていた。


「ひぃ!?」


 王は恐怖で大声を上げた。


 「な、なんだ!? 貴様たち!?」


 王や貴族達は白目の護衛達を見て恐怖で顔が蒼くなる。

 既に護衛の人間は蟻に洗脳された蟻人間と化していた。


「我らの最後の警告を無視した愚か者よ」


「ここが貴様らの墓場だ」


「水もケーキもない、この鉄の部屋で醜く血肉を啜りながら死ね」


 護衛達は爆弾の導火線に火をつけた。


 導火線は激しく燃えていき、王や貴族達が部屋の隅に逃げる。


「うぁぁぁ!! や、やめろぉ!! く、くるなぁ!!」


 爆弾を巻いた護衛達は王や貴族達の所には向かわず避難所の出入り口と食糧倉庫に向け走り爆発した。


「ひぃぃぃ!?」


 広く作られた避難所とは言え近くで爆発が起き、衝撃が王達を襲う。

 

 避難所の中には長い間生活できるように、寝具や椅子などの家具も置かれいたが爆発に巻き込まれてバラバラになった。


「は、ははぁ…何が死ねだ…む、虫ケラみたいに死に追って…」


 自爆して死んだ護衛達を嘲笑う王だったが、貴族達の言葉を聞きその顔は歪む。


「王様!! さ、さっきの爆発で扉の鍵が…」


「あ、あいつら…食糧庫に自爆しやがった…水も食い物も吹き飛ばしやがった!!」


 扉に自爆したせいで鍵が壊れてしまい扉を開けることができなくなった。

 食料も爆発のせいで水は蒸発し、保存の効く食べ物も燃え尽きてしまった。


「あ、あぁ…お、おい!! 他に外に出る方法は!? 他に出口ぐらいあるだろうが?」


 貴族達は首を横に振ってこたえる。


「そ、そんなのある訳ないでしょ!? この避難所の増設に金をかけるな、とおっしゃられたじゃないですか!?」


 臣下たちの声を無視し避難所に脱出路を作らなかった結果、王達はこの鉄部屋に閉じ込められてしまった。自爆してしまった護衛の蟻人間達の言うとうりに飢えと渇きを持って死を待つしかなかった


「あぁ、ああ…お、おぃ!! だ、誰か!! た、助けろぉ!!」


 鍵の壊れた扉を必死にたたく王。


 扉の向こうにいる蟻人間たちに向け助けを求むが誰も答えない。


「私を助けた者は金でも権力でもやる!! 他の者はどうでもいいから、早くを私を…ひぃ!!」


 鉄の扉を叩いていると天井の通気口から赤い何かと小さい塊が王に降りかかる。


「ペッ!! くっ、一体なんだぁ!?」


 避難所の中には窓はなく壁や天井に通気口が無数にあった。


 王は口の中に赤い液体が入り吐き出し、王は床に落ちた小さく白い塊や真っ赤で柔らかい何かを見つめる。


「ひっ、ひぃ!?」


 始めは料理で出る豚の肉か骨かと思っていたが、貴族の一人が床に落ちた物を見て悲鳴を上げた。


 白く太い指についた宝石付きの指輪。


 王妃が毎日ケーキを食べながら眺めていたあの島の鉱石で作られた宝石付きの指輪。


「ま、まさか? ぐぅ、ぐぇぇぇ!! げ、ぐぇぇ!!」


 二度目の嘔吐で王は気絶しそうだった。


 無数にある天井の通気口から落ちてきた物は、蟻人間達に解体された王妃のなれの果てだった。


「あっ、うぁぁぁ… 」

 

 水も食料もない避難所は死を待つだけの鉄牢獄になった。

 

 例え無理に鉄の扉を壊し外に出ても暴徒たちに惨殺される。


 王や貴族達は死を待つ囚人となってしまった。

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