第7話 兵士達の噂

 小島への侵攻のため奴隷達は何日も休まずに銃や大砲に使う火薬を運び続けた。


「おらぁぁ!! 休むんじゃねぇ!! 死ぬ気で運べ!!」


 深夜の港にて監視の男が奴隷達に向け鞭を打つ。


「あ、うぅ…」


 不眠不休で遠くの国から大きな麻布に入れられた火薬を運び続け奴隷達が次々と倒れていく。


「くそぉ!! おい!! 立ちやがれ!! おい、こらぁ!!」


 疲労と高熱で倒れた奴隷の背中に鞭が振り落とされて、痛々しい傷と血が流れる。

 周りの奴隷達も疲労と鞭を打たれる恐怖で倒れている奴隷を助けることができない。

 

「…けて…」


 倒れた奴隷は衰弱してかすれた声で「助けて」と出すが背中に無数の鞭傷をつけたまま死んでしまった。


 死んだ奴隷は火薬運びの邪魔にならないように道の隅に捨てられて放置された。


 死んだ仲間を弔うこともできず、動けなくなればゴミのように捨てられる。


 こんな地獄は嫌だ。


 助けて、この苦しみから解放して。


 誰か、あの王や貴族達を倒して。


 誰でもいい、神様どうか…



 奴隷達が心の中で悲痛な叫びを上げる中、奴隷の死体に蟻が群がり鼻や耳の穴に入り粘膜や器官を食い破りながら進む、やがて脳みそに辿りつき脳を食い破りやぶり中に入りこんだ。


 誰も死した奴隷の血肉を蟻が食らっているのに気づいていない。


 蟻の行列のように奴隷達は麻布を港に停泊している数隻の大船に運んでいく。


 奴隷達が火薬を運ぶ中、大船の中を兵士達が火を灯したカンテラを片手に殺虫粉を振りまき忙しく回っていた。


「おいおい、たかが島一つにこんなに武器が必要なのかよ? まるで戦争だぞ?」


「仕方ないだろ? あの島には凶悪な野蛮人どもがいて馬鹿貴族とお守りの手下達が殺されたんだ」


 良質の資源と奴隷の女を持ち帰ってきたグリーンもたらされた情報はこうだった。


 野蛮人どもの数は少なく武器は木の槍や石の斧しかないが、一部の者は怪力で大きな口と牙を持ち容赦なく人を食らう恐ろしい怪物だった。


「おいおい、それ本当か? だったら、あの女の奴隷共もヤバいんじゃねぇか? 」


 グリーンが連れてきた島の女達がいつ牙を向けてくるか分からない、と兵士が震える。


「あの無能貴族の言う事信じるなよ。実はよ……俺の知り合いが馬鹿貴族どもの船に乗ってたんだが…」


 殺虫粉を振り撒くのを止めて兵士達は小声で話し始める。


 兵士の知人によると、あの島には確かに良質の資源や綺麗な女はいた。だが、レッドやブルーその手下達を殺したのは実は現住人でなく蟻だったとの事だった。知人は島から離れた場所に停泊していた大船に乗っていて助かったが、浜辺で仲間やブルーが何百匹もの蟻に食われたのを目撃した。


「おいおい、グリーンの馬鹿は王や貴族に嘘つきやがって事か?」


「そう言うことだ。筋肉馬鹿レッド頭でっかちブルーを見殺しにして、アイツだけが手柄を独り占めだ。一緒に船に乗ってた奴らも、馬鹿貴族を守れなかった罪から逃れるためにグリーンに従ったってことだ」


 「じゃ、じゃぁ、国中にいる蟻もやべぇんじゃねぇのか? 俺らも食われるじゃねぇかよ?」


「馬鹿、そのためにこうやって殺虫粉を撒いるだろうが。ちくしょう、グリーンの奴が生きて帰ってきたせいで俺らの仕事が増えたぞ…」


「そうだなぁ…ふぁ~もう、神様でも蟻でもなんでもいいから、馬鹿貴族どもを消してくれないかな」


「おい、そんなこと言ってるとお前の首が飛ぶぞ。」


 レッド、ブルー、グリーンの3馬鹿貴族がいるように、この国の権力者にはロクな者はいなかった。何か問題があれば金や権力で解決すればいいと考えてる貴族の子供だって少なくない。


 既にこの国は腐ってしまっている。権力者たちを消さなければ、この国の未来はない。と末端の兵士から子供まで知っている事だった。


「はいはい、っと。そこはさっき奴隷達が運んでた火薬の保管室だからカンテラ持って中に入るなよ。うっかり落とせば木端微塵だからな」


「あぶねぇ、話しに夢中で気づかなかった。こんな真夜中に蟻よけで粉撒きさせやがって。 上の奴らは俺らの命を何だと思ってんだろうな?」


 兵士達は持っていたカンテラを落とさないように慎重に持ち保管室から離れた。

 

 保管室にはいくつもの木箱があり、中には奴隷達が命をかけて運んだ麻布に入れられた火薬があった。


 ガリガリ


 兵士や奴隷達は気づいていなかった。


 木箱の隅に小さな穴が開いた。


 木箱の中にある麻袋は食い破かれて蟻はその身に火薬を塗していた。




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