第13話 掛川由布子7「いいわけ」
由布子のいいわけ
閉店したはずの本屋さん。
ここは旦那と出会った場所。
閉店したのにシャッターが開いている。
私は引き寄せられるように中に入った。
「こんにちは」中にはよく知る本屋のおじさんと、なぜか制服姿の女子高生。
「あれ由布子ちゃん、どうしたの」
「いえ、たまたま前を通ったら、なんか開いていて。おじさんが倒れていたら大変だと思って」
「この人もここに来たいいわけしている」と一人の女の子に言われる。
いいわけと言われれば、確かにそうかもしれない。
「圭、初対面の人に失礼よ」もう一人の子が言う。
「由布子ちゃんも良かったら、お茶入れるところだから」
「いいんですか」
「かまわないよ。全然片付いていないけれどね」
「おじさんいいわけしないんだ」
「イヤ、さっき圭ちゃんにいいわけしたから」
「圭ちゃんていうの?」
「はい、圭です」
「私は、砂羽です」
「私は、由布子です」と二人のまねをして言う。
すると可愛い女子高生は笑った。
「この由布子姉さんは、君らくらいの時、旦那さんとここで知りあって結婚したんだ」
「そうなんですか」
「という圭ちゃんも、ここで詩を通じて知り合った子と、ここで詩の朗読していたんだよね」
「そうなの?私、旦那と知り合った時、一冊の詩集を取り合ったのよ」
「凄い、どちらも詩でつながったんですね。この本屋さんて詩集に力を入れていたんですか」
「そういう訳じゃないんだけれどね。そういう本ばかりが残ったの」
「でも私は、おじさんに感謝しているんですよ。だってこの本屋さんに詩集があったから、旦那がいて子供だっているんですから」
「あたしも、この本屋さんに詩集があったから、沙智と友達になれたんだから」
「凄いですね。この本屋さんと詩集のおかげで、二人の人生が変ったなんて」
「いやそれほどでもない」と私が言うと、その声が圭ちゃんと合わさった。
「二人していいわけしている」と言って砂羽ちゃんが笑った。
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