第8話 漆野圭4「深夜の散歩で起きた出来事」

砂羽の恋


親友の砂羽がどうしても見せたい物があると言う。

「はい」とあたし。

「この間どうしてもお腹が空いて、深夜に内緒でコンビニに行ったのよ」

「うん」

「月がきれいで」

「で、なに」

「駅前広場にストリートミュージシャンがいて、その人が凄く格好良いのよ」

「惚れたか?」

「そうかもしれない」

「おおー」

「でさ、会いに行かない?」

「えっ、深夜に?」

「そう」

「いや、どうやって駅前のミュージシャンがタイプなんで、会いに行ってくるね。なんて言って、いいよなんて言う親じゃないよ、うちは」

「そこを何とか、一緒に会いに行こう」

「はあ」

「お願い」と砂羽はあたしの目の前で手を合わせた。

と言うわけで、砂羽とあたしは親に内緒で深夜の散歩をすることになった。

十二時を過ぎて、親が寝たことを確認して家を抜け出した。


深夜の散歩は何だかドキドキする。

おまけに世紀のイケメンに会いに行く。

「彼は二人で演奏していたのよ、もう一人がキーボードで」

「そっちの人は?」

「まあ気にしなくていい」

「あっそう」


彼は長い髪を振り乱して、歌っている。

まああたしは趣味じゃないけれど、確かに格好良いかな。

でも絶対にこの深夜の雰囲気で、砂羽は好きになっているなと思った。

他にお客はいなかった。

演奏が終って砂羽と二人で彼の前に立つ。

「素敵な演奏でした」と言って砂羽が握手を求めた。

「ありがとうございます」と言って彼は砂羽の手を握った。

あれ?

声が違う?

甲高いぞ。

というか、まるで女の子?

「驚きました?」と横の男性が言う。

「口パクなんです。歌は僕で、見た目重視で妹にカツラかぶせて、ほらご挨拶」

「陽子です」

「あの、おいくつですか」フリーズしている砂羽に代わってあたしが聞く。

「十二歳です」

「どうですかこのあと四人でお茶でも」と男性が言う。

「いえ試験勉強の途中なんで、行くよ砂羽」

あたしは無理矢理砂羽の手を引いて、その場を後にした。

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