第7話 掛川由布子4「深夜の散歩で起きた出来事」

満月の夜の気配


「ありがとうございました」若い店員がおざなりに言う。

深夜のコンビニなんて、ほぼ初めてだ。

外は驚くほど暗い。

確かに街灯もあるにはあるけれど、なぜこんなに暗いと思って気付いた。

お店の照明と看板が消えている。

そう考えると、それらがいかに明るくしているか。

住宅地でも窓の灯が消え、普段ならついている玄関先の照明も消えている。

店を出ると、空には大きな満月。

辺りがブルーの光で満たされる。

本来はこんな深夜の街なんて、恐いし危険だけれど、その時の私は、何だかワクワクしてしまった。

自然足は家ではなく反対の方向に向かう。

月に照らされた家や、電柱、壁、見慣れているはずなのに全然別の物に見える。

私は導かれるように、月の光に照らされた街を歩く。

誰とも会わない。

まるでこの世界に、私しかいないかのように。

音もしない。

車も人も誰もいない。

家々の窓からも一つの光も漏れて来ない。

ここはどこ。

思わず私は思う。

ここはどこ?

決して私の知っているいつもの街ではない。

じゃあどこの街?

等間隔で街灯が道路を照らしている。

その光は綺麗な三角錐の形で、まるで深海の底のようなブルーを、そこだけ暖かな色で照らしている。


やがて家々は見えなくなり。

無機質な塀だけが続く。


一つ先の十字路から、石が転がる音がする。

この音は?

先日亡くなったおばあちゃんと石を蹴って遊んだ時の音だ。

「おばあちゃん、いるの?」

私は走って十字路までゆく。

でもそこには誰もいない。

今度は今来た後ろから、石を蹴る音。

私は振り返り、また音のする方に走る。

でもまた誰もいない。

曲がった十字路の先の街灯の下に何かがある。

私は慌ててそこに行く。

おばあちゃんの棺に入れたぬいぐるみ?

「おばあちゃん、会いに来てくれたの?」私は月に向かって叫ぶ。

「おばあちゃん」


そこで目が覚めた。

夢?

私の目から涙がこぼれていた。

祖母は、最後に会いに来てくれたんだ。

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