第4話 漆野圭2「ぬいぐるみ」

うちのぬいぐるみは頭が良い


「部屋にぬいぐるみがいるなんて。圭も女の子なんだね」と砂羽が言う。

「あたしを何だと思っていたの?」とあたしは下から持ってきたペットボトルのお茶を、砂羽に渡した。試験勉強と称して、砂羽はあたしの部屋にいる。

全然進んでいないけれど。

「まして二匹も。まさか一緒に寝てたりしてないよね」砂羽はバカにしたように言う。

あたしはちょっとくやしくなって。

「そんな事はしてないよ。いつもぬいぐるみ二匹で、少子化問題について話しているよ。少子化を止めるためにはどうしたら良いって」

「ふーん。うちも十五匹くらいいるけれど、最近の円高に付いて話しているよ」砂羽、お前はどうしてそう負けず嫌いなんだ。

「うちの子たちは提言を実現するために、NPO法人を立ち上げようと、準備をしているよ」案外あたしも負けず嫌いだ。

「うちの子たちも、十五匹で為替介入の時期と、金額についてのシュミレーションをしているよ」

「うちの子たちはNPO法人の理解を深めようと奔走しているよ」

「ぬいぐるみに言われたら、乗っちゃうかもね」と砂羽。

あたしは、一緒に寝ているパンダとウサギが、関係機関を回っている姿を想像した。

「うちの子たちは、シュミレーション内容のレポートを書いて、どこに出すか考えているよ」今度は十五匹のぬいぐるみが、レポートを書いているところを想像した。

「ぬいぐるみだとペン持てないよね」

「今はPCだからキーが打てれば」

「縫いぐるみの手、太いよね。キー打てる?」

「そこは根性でしょう」あたしはハチマキをしている縫いぐるみを想像した。


「砂羽、もう止めよう。話が不毛過ぎて、落としどころがない」

「確かに。これじゃあ、試験勉強にならない」

「そうだよ青春の無駄遣いだ」あたしは断じた。

「本当に無駄遣いだ。でも青春というとうちの子たちの見解では」

「まだ言うか。勉強するよ」とあたしは砂羽に言う。

「はい、はい」

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