第5話 掛川由布子3「ぐちゃぐちゃ」
ママのママのママ
「ママ、なんでイチゴぐちゃぐちゃにして食べるの」
「えっ」と言って私は手を止めた。
目の前の器のイチゴは、全て潰されている。
「これにミルクをかけてちょっとお砂糖、食べてごらん」
「おいしい」まあ見た目は悪いけどね。
でもおばあちゃんが私にイチゴを食べさせてくれる時は、いつもこうしていた。
いつからだろう。
イチゴに練乳をかけて、そのまま食べるようになったのは。
何で今思い出すかな。
「由布子。そろそろ皆さんお見えになるから」
「はい」今日は祖母の四十九日だ。
亡くなる前、祖母に私と母の記憶はなくなった。
母はおばさんで、私は生まれてこなかった次女だ。
最後の頃、祖母の中では、母も私も早くに亡くなった母の姉たちなどが、ぐちゃぐちゃになっていた。
「由布子、今日はありがとうね」
「そんなお礼を言われるようなことじゃないよ」
「まあ一応ね。公ちゃんもありがとうね」母は息子の頭をなでた。
「ねえ、ママ」と私が言うと、息子が反応する。
「ママ、おばあちゃんの事ママって呼んでいるの」母が反応する。
「そうだよ。ばあばも、ばあばのお母さんをママって呼んでいた」
「そうなの。みんなママで、ぐちゃぐちゃだね」そんな息子の言葉に母は微笑んだ。
亡くなる直前、祖母は母と私の事を忘れて、早くに亡くなった母の姉のことを、ぬいぐるみに投影した。
最後に一瞬だけ戻ったけれど、亡くなる直前、祖母の横にいたのは、今はもういない母の姉たちだった。
「ママ、辛かったでしょう」何を私が言いたいか、母には分かっていた。
「いいの。姉さんたちだってママに甘えたかっただろうから。それがかなわず逝ってしまったんだから。ママがずっと独り占めしていたんだよ。申し訳ないくらいよ」そう言って母は、小さく涙をこぼした。
「イチゴも、ママたちもぐちゃぐちゃだね」
「こら、何言っているの」
「いいのよ。さあ由布子、四十九日、始まるよ」
「うん」
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