第1話 外国人の鼻サーブ

「フォーティンラブ」

「ゲーム オオノ!!」

「おおおおおおおおおお」

 審判の声と共に、観客が盛り上がった。


 1stセット第1ゲームを、大野かんたは、1ポイントも落とさずに獲得して見せた。

 それもそのはず、彼は全てのポイントをサービスエースにより獲得したためだ。


 大野かんたの武器であるサーブは、レンジャー・エデラ―*1やラサエル・ビダル*2といった数多の強豪をなぎ倒してきた実績がある。



 *1 「レンジャー・エデラ―」(1980~) スイスの英雄、テニスにおけるすべての能力が高く、グランドスラム20勝。テニスのみならず、神経衰弱もプロレベル。


 *2「ラサエル・ビダル」(1986~) スペインが誇る闘神。土コートに滅法強く、身体の2割は土で出来ている。



 大野かんたのサーブは、只の強力なサーブというだけではなく、彼のサーブは世間から“外国人の鼻サーブ”と言われている。


 通常のサーブは横方向へのスピンをかけて、着地と真っすぐ跳ねるようにするのが普通であるが、外国人の鼻サーブは強力な縦方向へのスピンをかけることにより、着地と同時に高く跳ねる特徴がある。

 これが所謂、外国人の高い鼻の形状に似ていることから、外国人の鼻サーブと呼ばれるようになった。


 当然、大野かんたは1stセット1回目のサービスゲームから披露して、ラリーをすることなく、1ゲームをもぎ取った。


「くそ、高さが足りていないな・・・」


 大盛り上がりする観客とは違い、大野かんたは内心焦っていた。

 映像で見てもわからないくらいではあるが、外国人の鼻サーブが普段の鼻の高さではなかったのである。

 そして、大野が焦っていたもう一つの要因は、対戦相手であるユウキ・ヤマシタは、1ポイントも取れなかったのにも関わらず、不敵な笑みを浮かべていたためである。


「何なんだこいつは、外国人の鼻サーブを見ても動揺しないのか?

まさか、俺の外国人の鼻サーブが外国人の鼻の高さになっておらず、アジア人の鼻サーブになっていることに気づいたのか!?」


 大野かんたの疑問をよそに、サービスゲームはユウキ・ヤマシタへと渡った。

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