第9話 絶対王者の意地
大野かんた 4-5 ユウキ・ヤマシタ(ホタル)
追い詰められた大野。
プロテニス人生で初めての経験に落胆の表情を浮かべていた。
「俺が負ける・・・」
自身の頭の中には敗北の2文字が浮かぶ。
明日の朝刊では、”絶対王者がアフロヘア―のタンクトップ姿で、ニーハイソックスを履いて、左腕がサイコガンになっている日系フランス人兼ホタルに負ける!”という見出しが出るのかと思いながら、第10セットへと臨んだ。
しかし、ホタルの猛攻は続く。
大野は、眩しすぎて眉間にシワが寄っていた。
眉毛が繋がりそうなくらいに、眉間にシワを寄せないと何も見えなかったのである。
(ど、どうすれば・・・)
徐々に弱気になっていく大野。
「15-0」
パコーン
「30-0」
大野の敗北が今か今かと近づいていた。
眉間にシワを寄せた大野の眉毛も今にも繋がりそうになっていた。
「これだ!!」
その時大野に、一縷の光が刺した。
ホタルから放たれる強力なサーブを完璧に跳ね返した。
その時の大野の眉毛は完全に繋がっていた。
大野は昔からこち亀が好きだった。
意外なことに小さい頃の夢はテニス選手ではなく、警察官であった。
”両津勘吉”に憧れていたからである。両津のように街の平和のために、面白おかしく事件を解決したい。
大野少年には現実的な夢があった。
大人になるにつれて、テニス一色になっていた彼の人生は、あたり前のようにテニスのプロ選手への道を選択させていた。
そして、こち亀からも離れる生活が続いていた。
しかし、彼の胸にはいつもの両津勘吉の姿があった。
幼い頃に描いた彼のヒーローの姿が。
大野は両津勘吉打法を試合の中で習得した。
光というのは、黒色に引き寄せられる性質がある。
プロ野球選手が屋外球場での行われる試合で、目の下に黒のアイラインを入れているのは、黒のアイラインに光が吸収されることで眩しさを軽減する効果があるためである。
両津勘吉の繋がった眉毛にも、それと同じ原理で光は集中していくため、ホタルの光を軽減できていた。
素の実力では、数々の猛者を倒してきた大野の方が圧倒的に上手であり、条件が同じになった今、大野が優勢になるのは至極当然の出来事であった。
30-15
30-30
30-40
徐々に大野が追い上げる。
あと1ポイントとなった瞬間に、大野は持参していた下駄に履き替えて、完全に両津勘吉と同化した。
「ゲーム 両津!」
5-5
絶対的王者の意地を見せ、試合をタイブレークへと持ち込ませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます