第11話 ハゲの一族

 ■11 章 【ハゲの一族】

 大野は絶対に落とせないセットが始まった。


 これに落としてしまえば、完全に敗北となり、プロ人生初の出来事であると同時に、引退がかかっていた。


 大野家は代々ハゲており、テニスで負けたら髪の毛が抜け落ちるという言い伝えがあった。

 実際に大野の父親は学生時代にテニスで負けたことにより、ハゲ初め、現在ではになっている。兄も草テニスの試合で負けてからハゲており、一家の中でハゲていないのは、大野かんた唯一人となっていた。


《ハゲざるもの、負けべからず》


 大野家の和室に貼ってある教訓である。


 俺はハゲたくない。大野はその一心からラケットを振り続け、今に至る。

 しかし、そんな思いとは裏腹に徐々に近づいくるハゲの呪い。


「どうすれば・・・どうすれば・・・」


 ハゲることへの恐怖から次第に身体が震え始める。1 ポイント失えば髪が少しずつ抜けていくのを、大野は実感していた。事実大野のファンの中にハゲは1人もいない。

 ハゲている人は大野のアンチとして、sns などで叩いていた。


「大野もあっち側の仲間入りか」

「#大野 #ハゲ」

「大野まじハゲてるw うけるw」


 こうした声は大野のメンタルにダイレクトに届き、震えを助⾧させていた。

 その時、


「大野ハゲてもいいじゃないか!ハゲでもジェイジェイ・ステンレスとかフルーツ・ウイースみたいな格好いい奴等は沢山いるぞ」


 観客席からファンの一人が声を上げた。


「ありがとう。そうだよな。ハゲても俺を好きになってくれる人はいるよな」


 大野から震えが収まった。

 ハゲることへの恐怖心が無くなった大野は、ユウキのコートを分析した。


(俺の目が光にやられて、気づかなかったが奴のコート何かがおかしい・・・なるほど、やりやがったな)


 大野は、ユウキのコートの異変に気付き、叫んだ。


「あいつ側のコートだけ、天然芝じゃねーかよ!!」


天然芝というのは、庭師と呼ばれる技術師の手入れが必要になり、ラーニングコストが多くかかってしまう。

 その点、人口芝であれば近所のホームセンターに売られている正方形の物を敷き詰めるだけなので、コスト的に安く済むのである。


 全麦オープンはクラウドファンディングにより運営されている。

 今回は両面を人口芝にするだけの資金が集まらなかったこともあり、片面を人口芝、片面を天然芝にし、気づかれないように天然芝の上に、人口芝の芝の部分だけを撒いていたのである。

 

 衝撃の出来事は全米を震撼させた。


 大野もトリックを見破った嬉しさを爆発させ、第12セットをストレートで獲得した。

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