第7話 必殺のデコ前サーブ
大野の読みは見事炸裂し、ヴィーガンレシーブによるリターンエースを量産して、第4セットを見事取り返した。
2-2
しかし、大野の外国人の鼻サーブは依然入ることはなく、気付けばスコアは
4-4となり、終盤戦を迎えようとしていた。
テニスにおいて、アドバンテージゲームである5セット目を先に獲得した方が、その後の展開を有利に進められると言われており、大野もユウキも確実に重要視しているセットであった。
大野のサービスゲームから始まる第9セット目に大野は奇策を繰り出すことになる。
「今日の外国人の鼻サーブは上手く決まらねぇ。だったら奥の手を出すしかないな」
大野は本来7 色のサーブ(厳密にいうと12種類)を持つ男と言われている。
相手に応じてサーブを使い分け、有利な展開を作り出す。
絶対王者と言われる所以の1つでもあった。
その他6 種類のサーブを使わなかったのは、外国人の鼻サーブに対して、鼻の低い自分もそうなりたいという願望を持っていたためである。
外国人の鼻サーブを使い続ければ、いつか自分の鼻も高くなるんではないかという願望を。
しかし、ブロッコリーを持ったアフロヘア―のタンクトップでニーハイソックスを履いた日系フランス人であるユウキという強敵を前にして大野は願望を捨て勝ちに拘る選択肢を取った。
「あの構えは!」
「出るか?大野の必殺デコ前サーブ!」
観客の盛り上がりも最高潮となっていた。
大野は常人よりもおでこが前に突き出ている。これは遺伝によるものだった。
その常人よりも前に突き出たおでこに、テニスボールを擦ることで相手を威嚇すると同時に、インパクトの瞬間に、おでこをより強調しながらサーブを放った。
「15-0」
その鮮やか過ぎる大野のおでこに見とれたユウキは、一歩も動くことが出来なかった。
これこそが、デコ前サーブの真骨頂である。
おでこを見過ぎれば、ボールを見失ってしまい、ボールを見れば、美しいおでこを見ることが出来ない。
この究極の2択を相手に強いるのがデコ前サーブの恐ろしい部分である。
「どんなもんだい!俺のデコを見て、まともに打ち返せたやつはいねぇ」
大野は誇らしげに語った。
その瞬間、ユウキは小声で
「なるほどな。今の俺じゃデコ前サーブを崩すのは無理だな・・・」
そう呟くのと同時に、ユウキの身体が発光していくのを大野の両目は微かに捉えていた。
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