7
洗濯物を干し終わった。海の臭いは洗濯機を通してすっかり我が家から流れていった。街に吹く風は何の臭いもしない。もうすっかり日は暮れていて、ベランダから見下ろす遠景に少しばかりの夜景が見える。日曜であってもキラキラ輝くその輝きのいくつに照らされて今も誰かが働いているのだろう。ちょうど夜景の方へ電車が走る。朝が来たら二人はいってきますを言って別々にあの街で過ごす。
私は明日からの普通の仲間との普通の戦いを思ってため息をついてしまう。
「できたよー!」
私に洗濯物を任せてから、冷蔵庫から取り出したお弁当箱をお皿に盛って温めて、とうふとカットレタスをのりやたまごや鰹ぶしやポン酢で美味しくしたものを添えてくれている。
朝から何も食べてなかった。明日のことはお腹の音にかき消されて食卓に向かった。
「明日靴乾くかな」
私は先にベットに入った彼女に話しかけたが返事はなかった。ベットの側に立つと彼女は手にスマホを握ったままねむってしまっていた。画面には今日撮った写真が明るく輝いている。照らされた彼女の寝顔はまた私を幸せな気持ちにした。
私は彼女のスマホをとって充電コードを差してからベッドボードに置いた。スマホの方に丸まって寝ている彼女に体を寄せて横になる。彼女の寝息を子守歌に揺蕩うまどろみの中を漂った。
この幸せな日もきっとすぐに日常の中に紛れてしまう。心を満たしてくれる希望とか夢みたいな素敵なものほど、会社や仕事や支払いみたいな嫌いな奴らが隠してしまう。私は一人でいたらきっと素敵なものをとりあげられた、ただ働くだけの普通になってしまう。
そんな私の普通のこころを彼女は照らしてくれる。夢や希望はここだって灯台のようにおしえてくれる。光みたいに、いや光だって水やガラスを通り抜けたら曲がってしまうからそれよりきっとまっすぐに私の心に入ってくる。
「ありがとう」
眠りにつくぼんやりした意識の中で輪郭のとけた寝ぼけた声でそう聞こえた。それから彼女の優しいねむたくなる体温に包まれた。
まっすぐな人だから、私は避けようも防ぎようもなく素直になれる。社交辞令や謙遜や気遣いでさえない彼女のことば。今夜もまた私のこころをどろどろに溶かしてしまった。
私はずっと彼女に照らされ生きていく。彼女にとってもそうでありたい。
私はまどろみの中で感じたあたたかな彼女を抱き寄せてねむりについた。
おしまい
6/27 一旦完成です。ここまで読んで頂いてありがとうございます。一つ申し訳ないお知らせなのですが一旦ここまで書いてしまいたくて走り抜けてしまいました。しばらく言葉選びや表現をいろいろ直してもっと素敵にしていきます。もしご関心頂けるようでしたら夏の終わりには満足いく形にするのでその時もう一度楽しんで頂けたら幸福の極みです。わがまま申し訳ないです。 ぽんぽん丸
不屈折 ぽんぽん丸 @mukuponpon
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