探偵は幼女がお好き
渡貫 真琴
第1章:時計の静止する日
前編
私の名前は赤坂千佳、好きな言葉は
まずこの響きが既に蠱惑的。私は火の属性に接続、自分を爆発で打ち出して膝蹴りで目の前のガキの首をへし折った。骨の甘い響きが体を駆け抜ける。
目ん玉がハローって感じで飛び出したガキの目玉を押し込みつつ、誰も観てないよなと辺りをキョロキョロ。
『殺しましたね?』
耳元の通信機から流れる絶対零度の声に私は思わず固まった。畜生、監視してやがったな。
「 待てよ、まだ死んでないって」
『ほぼ死んでますよねそれ?
喋れませんよね、馬鹿なんですか、死にますか?』
「そんときゃお前の
ったく、凹むぜ」
通信相手は加賀魁璃、サドっけを除けば良い女。
私の脳内に警報が鳴り響く。特に確認することもなく火の属性に接続、背中で炎を爆発させて空中にピンボール、スーパーボールみたいに小刻みに空を跳ね回り、私を狙った敵を探す。
『2時間と10時の方向、バレましたね』
瞬時に敵を見つけた魁璃の声に従い、私は敵を意識しながら手を握りしめる。手のひらが閉じた瞬間、激しい爆発が巻き起こった。
いや、死んではいない。何者かがこちらへ駆けてくる。私は敢えて敵の方向に自分を打ち出した。煙の中から現れた敵のマヌケな面に拳を一発、倒れたソイツの顔面にもう一発。やっぱ暴力は一方的に振るうのが嗜好だと思う、相手が強ければ強いほどいいけど贅沢はいっていられない。
脳の心を焼く加虐に酔う私を、敵が何かの属性に接続した気配が引き戻した。さっきの爆破で死なない時点で分かっていたようなものだ。私は飛び退くと自分を後方に吹き飛ばした。
先程まで私がいた空間がグニャリと歪む。
私は敵の周囲の壁や地面を内側から爆破した。加速した破片が奴に殺到する。
能力者も人間だ、その認知機能には限界がある。
私は手のひらを全力で握りしめた。
吹っ飛べ。
天高く火柱が上がった、殺到する破片を念動力で防御していた敵は、私の炎を詳細に認識し切る事が出来なかった。
轟音が空気を揺らす、この感じがたまらない!
『敵影消滅、ついでにさっきの人も爆破の破片でひどいことになってます。
脳みそついてます?』
魁璃の冷たい声が通信機から木霊した。
「相棒の無事を喜んでからでも罵倒は遅くないんじゃねーの?」
『何事も鮮度が重要ですから。
情報もね。
とにかく、こうなってしまったものは仕方ありません。強行突破しましょうか。
行けますね?』
「へっ、 誰に聞いてやがる」
『情報源を焼き殺した馬鹿に言っています。
それでは、馬鹿は馬鹿らしく暴れてください。援護しますから』
通信が切れる。
私は暴力を振るうのも振るわれるのも好きだけど、精神的暴力に対してはそんなに強くない。
ちょっと凹んだので、いつもより無茶な暴れ方をさせてもらう事にする。
両の手を重ねると火の属性に接続、私は建物の壁面に向かって全力の炎を放った。
壁が蒸発し、建物の中にいた数名が塵も残さず焼け死ぬ。香しい死の香り。
人呼んでヘルバーナー、私の必殺技だ。
「うぅん、今日も生きてる!」
テンションが上ってきた私は、自分を爆発で建物内に撃ち込んだ。
唖然とする敵の真ん中に飛び込み、火で加速した回し蹴りで3人の頭を粉砕、余韻に浸る間もなく手を握り締め、別の部屋から狙っていた敵を爆殺。撃ち込まれたショットガンの玉を火の壁で蒸発させ、射手の目の前に滑り込むと頭を掴んでボン!
私は暴力が好きだ!頭に登った血流に身を任せオーバーヒートするまで火を振るい続ける。
背後で私を狙っていた敵の頭が爆ぜた。魁璃の援護射撃だろう。
『この駄犬!保護対象まで殺す気ですか!』
「ちゃんと居場所はわかってるって!」
私は攻撃が止まるのと同時に階段を駆け上がると、保護対象のいる扉を開いた。
「来るな!一歩でも近づけはこの子供は死ぬぞ!」
敵は保護対象の女の子を羽交い締めにして、頭に銃口を突きつけている。
「悪人ってのはどうもワンパターンで飽きるな」
やっぱり魁璃の言うように、間取りを配置してからの奇襲が良かったかな。
私は後悔しつつ両手を上げた。
「そうだ、能力も発動させるなよ……。
くたばりやがれ!」
男の周りに水胞が浮かび上がったかと思うと 、高圧水流の斬撃が私に発射された。
自分を空中に打ち出し、即座に打ち下ろす。
私は男の肩に着地した。
恐怖の声を漏らす男の頭を掴み、脳みそをミディアムに焼き上げる。いい匂いだ、お腹が減ってきた。
今日の夜はステーキにしようか。
崩れ落ちる男を下敷きに着地する私を、少女が怯えたような目で見つめる。
想定と違うな。
「助けに来ましたよ、お嬢様。
荒事に巻き込まれたなら、この赤坂探偵事務所をいつでもお尋ねください。
……御美しい方だ、こんどお茶でもどうですか?」
手を取って、甲にキスすると少女は白目をむいて気絶してしまった。
『あれだけ暴れた相手に口説かれたら怖いに決まってますよね、この腐れロリコンが』
「そ、そんな、こんなに頑張ったのに……」
私は超能力探偵で、正義の味方で、報われないロリコンだった。
ずっと暗い場所にいた。
能力者同士で戦い、規定数になるまで殺し合いを続ける子供だけのデスゲーム。
私達はお互いの顔も知らず、生き残るために獣のように殺し合った。
数少ない仲間も次々と死んでいく。
永遠に続くかと思われた生存競争は唐突に終りを迎えた。
「ったく、こんなところから能力者を借りていたとあっては家の名声に傷がつくではありませんか。
穢らわしいカス共ですね」
闇が晴れ、光の中から現れた幼女をひと目見た瞬間に、私はあっさり恋に落ちた。
それは女神の顕現だった。
そして、私は初恋の相手にムチで打たれている。155センチのおさげとメガネがよく似合う玉のようなロリに、私は土下座で服從を示す。
「何度言ったらわかるんですか!この駄犬が!
あなたの仕事は敵の拉致であって急襲ではないとさんざん説明しましたよねぇ!」
「ふーっ!ふーっ!」
「興奮するな!変態!この変態!」
「うううぅーっ!」
魁璃が尻をぶつ度に甘い痺れが脳を刺す。快楽で頭がぶっ飛ぶびそうだ。
よだれで水満たしになった床に私が突っ伏すと、ようやく折檻は終わりを告げる。
「お嬢様、嫉妬もそのぐらいで止めておいた方がよろしいかと」
魁璃の斜め後ろで待機するメイド、古宮美々がうんざりしたような表情を隠さずに進言した。
「嫉妬なんかしていません。
誘拐されるようなオツムの弱い女に私が嫉妬するものですか」
「 お嬢様、今更取り繕うのは無理があります」
「黙りなさい」
「 はぁ……」
この女、相変わらず魁璃に対する忠誠心が微塵も感じられない。
やっぱり私がメイドとして永久就職するしかないのでは?
「今火種を煽るのはやめたほうが良いと思いますよ」
どうやら心を読まれたらしい。
美々は気怠げな顔で私を引き起こすと、ぐちゃぐちゃになった顔をハンカチで拭う。
「いつも悪いな、美々」
「メイドの役目ですから」
涼しい顔で私を抱き上げた美々はほんの少し笑みを見せる。
ソファーで横たわる私を見て、魁璃はそっぽを向いた。
「これに凝りたら他の女にデレデレしないことです。見苦しいので」
「素直に嫌だって言えば良いんじゃないですかねー」
美々の突っ込みを無視して、魁璃はモニターに情報を映した。
「……誰かさんのせいで時間も無くなってきたことですし、そろそろ情報共有に入りましょう」
もちろん、美々は誰かさんへの回答として魁璃を胡乱な目で見つめている。駄目イドめ。
「誘拐された少女の残留思念を読み取った結果、彼女が能力者であることが判明しました。彼女自身の自覚は薄そうですが。」
「へぇ、つーことは、やっぱり能力者連続殺人事件の犯人がらみだったわけ?」
「はい、誘拐犯達は知らなかったらしいですけど、彼らに残った残留思念から、犯人の能力パターンを感知しました。
誘拐犯は犯人に能力者を高値で売る契約を結んでいたようです。
大方、取引現場で全員皆殺しにするつもりだったんでしょうね。
奴らの中にも能力者がいる訳ですし」
巷では、能力者だけを狙った連続殺人が巻き起こっていた。能力者なんて殺しても死なない様な奴らばかりだと言うのに、被害者は既に99人にも及んでいる。
世間とは勝手なもので、非能力者達はまるで浮かれるかのように日夜この話題を楽しそうに話し続けている。
まるで、能力者と自分たちが同一の生き物だと認めて居ないかのように。
当然、そんな社会の風潮を見た魁璃の怒りは日に日に募っていき、遂に私の下に勅命が下されたというわけだ。
私の探偵の職は世を忍ぶ仮の姿、その実態は魁璃に使える
「取引現場は長野県にある旅館でした。
約束の日は明日。
……もう、言わなくてもわかりますね」
「 直接乗りこんでぶっ殺す!」
「嬉しそうにしないでください。
と言うわけで、これから長野県まで飛びます。休憩は飛行機の中で取ってください」
「人使いが荒いヒトだぜ。
この仕事が終わったらキスしてくれるぐらいじゃないと割に合わないんじゃねぇの?」
「十分な報酬は与えているはずですが」
「わかってるくせに」
私がニヤリと笑うと、魁璃は頬を赤らめてメガネを上げた。
「検討しておきます」
「マジで!?当てにしてるからな!?」
どういう風の吹き回しだこりゃぁ!?あの麗しきドSロリがキキキキスを検討!?
唖然としている私を置いて、そそくさと魁璃は出ていった。
明日第三次世界大戦が起こっても不思議じゃない。私は期待と世界の終わりに思いを馳せながら禁断の唇を思いを馳せるのであった。ふぅ。
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