第二話
目標の敵拠点はかつて人が住んでいた無人島を整備したものだった。
島への唯一の定期船を模した高速艇で、12名のメイド部隊、魁璃、そして私、赤坂千佳が乗り込んでいる。
船が港につくと、敵の構成員が船に接近してくる。
亜音速弾の.300BLKにサプレッサーを装備したM4小銃が船内より瞬いた。
倒れる敵が動かないことを確認し、魁璃が背の低いメイド、根妻
「行きますよぉ〜!」
気の抜けたような声で、光は能力を発動した。
彼女の周囲からパチパチと電気の弾ける音が響く。
光は
彼女は細やかな電気操作を苦手とする代わりに、その圧倒的な操作容量で電磁パルスを放つ事ができるのだ。
光の放った電磁パルスは、島の電気系統を誤作動へ導き、沈黙させた。
「それでは、これより作戦を開始します」
魁璃の言葉で、戦いの火蓋が切って落とされた。
突如電子機器が無効化された事により、島の中はパニックに陥っていた。
「時計塔の上、3時方向2回の窓、電柱の裏」
首から下げたカメラの念写により、敵の位置を把握したくるみさんが指示を出した。
その瞬間、メイドたちが1つの標的につき2人がかりで射撃を浴びせる。
稀に弾丸を能力で食い止められるも、僅かにタイミングと場所をずらして放たれる二射に気づけずに撃ち殺されてしまう。
超能力者を殺すには認知の外を責めるのが最も効率的なのだ。
くるみさん自身もフルサイズのAR-15小銃を使い、次々と敵を眠らせていた。
恐らく、世界で最も洗練されている対能力戦術を、メイド達は日頃の訓練通りにこなしている。
……その手際の良さには惚れ惚れするけど、ホント私のやる事ねぇな。
火炎操作はただでさえ目立つから、敵に情報を与えたくない様な段階では私のやる事は殆どないのだ。
私は大人しくメイドの後ろをついて行く。
敵の施設まで辿り着くと、くるみさんは私に目配せした。
ようやく出番か、待ちくたびれたぜ。
明らかに敵が待ち構えている筈の正面からわざわざ突入する必要はない。
私と美々は施設側面まで回ると、美々の収納空間で転移した。
外のメイド達を探していた敵が、錆びた人形のようにゆっくりこちらを振り返る。
「御機嫌よう、旦那様」
美々はM4小銃を即座に叩き込んだ。
「先に言っときますけど、場所がバレるまで千佳は戦っちゃ駄目ですからね」
「私も銃撃っちゃダメ?」
「駄目です。
千佳は能力戦闘以外からきしなんですから。千佳の流れ弾で殺される未来しか見えません」
美々のジト目に私はがっくりと肩を落とす。
まだまだ退屈な時間は続きそうだった。
作戦開始から1時間が経過した。
能力戦闘に移行するまでもなく、メイド部隊と美々の挟撃で戦闘は順調に進んでいった。
施設の半分がすでに制圧されている。
魁璃達と合流した私達は、施設の開かない扉をC4爆弾で吹き飛ばして入り込む。
施設の奥に進むにつれて、その設備の物々しさは増していく。
「……千佳、これって」
「あぁ、子供ん時に見た装置だ。
あれで頭の中掻き回されるのキツかったよな」
「人類進化研究所はご主人様が滅ぼしたじゃないですか」
「脱出したメンバーが居たんだろ。
美々、大丈夫か?」
美々は顔色が悪くなっていた。
無理もない、死んだ人間がいきなり蘇ったようなものだ。私だって胸糞悪いぜ。
「問題ありません。
……こんなときの為に、私は強くなったんです」
それでも美々の目には、変わらず闘志が揺らめいていた。
本当に強くなったんだな。
泣き虫だった過去のあいつはもう居ないのだ。
「そうだな、あの頃の私たちとは違う。
今度は私たちの手でブッ潰せるんだ、腕が鳴るぜ」
私は自信たっぷりに笑って見せた。
施設の奥部に進行するメイド部隊は、通路が直線的になるにつれて隠れることが不可能になり能力戦闘に移行した。
メイドたちは能力戦闘でも組織立った動きを崩さない。
念動力者が念力で敵の攻撃を押し留めている間に、ようやく出番が来た私の炎と光の電撃が通路を照らす。
「クリア、進みましょう」
敵を排除し、前進しようとしたくるみを魁璃の鋭い声が呼び止める。
「何か来る!警戒!」
魁璃の声に銃を構えたメイドたちは、驚きに声を上げた。
地面に足が沈んていく。
私は咄嗟に空中に自分を撃ち出すと、天井を溶かして取っ手を作りぶら下がる。
メイドたちの足が沈んだ所で、地面が再び硬化した。
地面に足を拘束される形になったメイドたちは身動きが取れない。
「ヤツだ……」
思わず唸る。
「やぁ!久しぶりだねチカ!
ボクの事を覚えてくれていたみたいで嬉しいよ!」
ショートカットの女が嬉しそうに笑って、地面の中から浮き上がってきた。
「忘れるかよ」
私は地面に着地し、自分が知る中でも最強の透過能力者、木村芹奈を睨みつける。
「ずっと探してたんだよ。
チカったらボクから逃げちゃうから、マトモに勝負出来たこと無いんだもん」
「テメェ、なんでここにいやがる」
「なんでって、別にボク、博士のこと嫌いじゃないし。
沢山お金もらえて、沢山能力使えるなら言う事無しでしょ?」
芹奈は能力中毒者とでも言うべき性質を持っていた。
私のように戦いが好きというわけではなく、ただ好きに能力を奮いたいという衝動に抗えないのだ。
子供の頃、何度も何度も目の前で仲間を殺された記憶が蘇る。
「メイドたちの拘束を解いたら、別ルートから迂回して奥へ向かいなさい。
あなた達が居ると全力で戦えません」
身体を強張らせた私に、凛とした声が響いた。
壁から太刀を抜いた魁璃が、太刀の切っ先を芹奈に向けた。
床が透過し、体が地面をすり抜ける前に壁に太刀を突き刺してぶら下がっていたらしい。
「千佳、貴女は私の犬でしょう。
疑問を抱かず動きなさい」
「で、でもさ……」
「聞き分けのない犬は嫌いです」
「うぅ……」
ピシャリと言い放たれた私は思わずしょげてしまう。
そんな私に、魁璃は苦笑して答える。
「勝ちますよ」
気負いのない言葉だった。
「その為にここに居ます」
私はメイドたちの足元を僅かに爆破する。
言葉一つで、私は魁璃への不安や恐れをすっかり切り捨てられてしまったから。
足を引き抜き、別ルートへ即座に移動するメイド達と走り出した私の背中に魁璃の言葉が飛んでくる。
「この戦いの後、大切な話があります。
絶対に生きて帰ってきてください。
良いですね!」
「そっちもな!信じてるぜ!」
私は振り返らずに、メイドたちの後を追った。
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