第9話 勇者を助けてしまう

「モンスターに襲われても、わたしはお前を助けないからなっ!」


 ここは迷いの森。

 俺はブランドン公爵の馬車を護衛していた。

 一緒に護衛するセシルには嫌われてしまったらしい。

 ま、どうせセシルはダストの味方になるキャラだから別にいいけど……


「いや、助けとか要らないから」

「ぐ……っ!」


 なんかプライドの高いセシルを、刺激してしまったらしい。

 原作の設定では、セシルは最強を追い求める騎士。

 S級冒険者のブラックに、対抗意識があるのかも……


 (うん。ちょっとめんどくさい……)


 原作では、セシルは主人公ダストとの決闘に負ける。

 主人公ダストと一緒にいれば最強になれる……と、セシルは思ってしまい、主人公ダストに忠誠を誓うのだ。

 たしか、そんな感じのシナリオだったはず。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああっ!!」


 馬車の隊列の後ろで、悲鳴が上がる。


「なんだ……?!」


 隊列の先頭を歩いていた俺とセシルは、すぐに後方へ向かう。


「あれは……ジャイアント・オーク!!」


 セシルはそう言うと、聖剣デュランダルを引き抜く。

 ジャイアント・オーク――白いデブった巨体。目は貪欲に赤く光っている。

 危険度A級のモンスターで、オークが突然変異した上位種だ。

 

「オガああああああ!!」

「ぎゃあああああああああ!!」


 後方を守っていた衛兵たちを、蹴散らしていくジャイアント・オーク。


「ここはわたしが行く。ブラック、お前は手を出すな!」

「いやいや……一緒に戦ったほうが効率的じゃないか?」


 原作のキャラ設定でも、セシルは単独行動を取る傾向にあった。

 自身の実力への、絶対的な自信ゆえだろう。

 だが実際、せっかく仲間がいるなら協力して戦うほうが絶対いいはず……


「ふんっ! お前がいても足手まといになるだけだ!」

「そうか。そこまで言うなら、俺は見てるだけにするよ」


 まあヒロインキャラのセシルなら、ジャイアント・オークも一人で倒せるかも。

 手伝ったらめんどうそうだから、俺は様子を伺うことにした。


「ジャイアント・オーク……我が剣にひれ伏せ。シャイニング・ソードっ!」


 セシルの剣が激しい光に包まれる。

 シャイニング・ソード――聖属性魔法の最強剣技。


「はあああああああああああああ!!」

「オガァ!!」


 セシルはジャイアント・オークの腹を斬りつけるが、


「オガァ!」

「まったく効いていない……っ!」


 ジャイアント・オークは、通常のオークが突然変異した姿だ。

 もしかしたら、聖属性魔法への耐性を得たのかもしれない。

 異種族のモンスターが交尾したり、ダンジョンから出る瘴気の影響で耐性を得たりする。


「オガァ……っ!」


 ジャイアント・オークが、セシルへ向かって突進してくる。


「く……っ! もう一度、シャイニング・ソードっ!」

 

 またシャイニング・ソードを放つが、


「オガァ?」


 全然オークには効いていない……

  

「オガァァァ!!」


 ジャイアント・オークは、セシルだけを見ている。

 セシルに狙いを定めたようだ。


「ぐぬ……っ! どうすればいい……」


 セシルの攻撃は効かない。

 そして、ジャイアント・オークはセシルを襲う。

 オークに犯される姫騎士……ってやつが、目の前で起ころうとしていた。

 このままじゃ、ヤバいな。


「ブラック……っ! お前も戦え!」

「えっ? でも俺には手を出すなって……」

「ぐぬぬ……っ!」


 めっちゃくちゃ悔しそうな顔をするセシル。

 さすがにジャイアント・オークに、女の子がいろいろされるのはマズイ。 

 他の騎士はビビりまくって動けない。

 助けられるのは——俺だけ。

 仕方ない……助けるか。


「水魔法——激流放水」


 俺は右手から水流を放つ。

 ジャイアント・オークは水浸しになるが、


「オガァ!!」


 そう。水で濡らしただけでは何も起こらない。

 

「全然効いてないじゃないか……」


 セシルが絶望した表情を見せる。

 しかし——


「上級水魔法——スライム化」

「オガァ……? オガァァァァァァァっ!」


 ジャイアント・オークの身体ついた水が、どんどんスライム化していく。

 スライムに身体がすっぽりと覆われてしまう。


「高等上級水魔法——侵食」

「オガァァァァァァァァァァァァァっ!!」


 スライムに身体が喰われていく、ジャイアント・オーク。  


 (う……っ! 割とグロいな……)


 ジャイアント・オークは、完全に飲み込まれた。


「すごい……ジャイアント・オークを倒したぞ!」

「さすがS級冒険者だ」

「あんな魔法、見たことない」


 騎士たちがビックリしている。  

 王宮にある皇族限定の図書館で、水魔法を学んだからな。

 普通の人は知らない水魔法も俺は使える。 


「ブラック……助けてくれてありがとう」


 セシルがうつむきながら、俺に礼を言う。


「いいよ。味方を助けるのは当たり前だ」

「あれだけ一人で勝てると言っていたのに、すまない……」

「まあ、気にするな」

「……! 意外といい奴だな、ブラック」

「意外とは余計だ」

「…………ブラック、わたしをお前の騎士にしてくれないか?」

「えっ?」


 セシルは主人公ダストの騎士になる設定だったはずだが……


「わたしは最強を追い求めている。ブラック、お前はわわしが出会った中で1番強い。だから、お前の騎士になりたいのだ」

「うーん、そうか……」


 騎士になる……つまり、マスターとサーバヴァントの関係になるということだ。

 少しめんどうだが……セシルの目は真剣で。


「いいよ。わかった。セシルのマスターになる」

「本当か? ありがとうっ! 嬉しいぞ!」



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