第7話 お前がブラックなわけない……っ!

「怪しいヤツっ! さっさと帰れ……っ!」


 ここはブランドン公爵領。

 帝都から馬車で2日間くらいの距離だ。

 ブランドン公爵は隣国のアドラ王国へ外交上の任務があるのだが、アドラ王国へ行くには、迷いの森を通らないといけない。

 迷いの森はモンスターが出現するから、S級冒険者のブラックに護衛を頼みたい……とのこと。


 この依頼を引き受けるのは、フェリシアたんのためだ。

 ブランドン公爵家は皇族の親戚で、有力な貴族。

 皇族のフェリシアたんの依頼で、S級冒険者のブラックが護衛を引き受けたことにして、ブランドン公爵家ををフェリシアたんの味方にする。

 フェリシアたんはギルドを通してブラックと繋がっている——ということにすれば、他の皇族たちに対する牽制にも

なるだろう。


 しかし——


「お前がブラックなわけない! 帰れっ!」


 なぜか馬車を守る衛兵に、ブラックであることを疑われていた。

 

 (今まで、目立たないように活動してきたからな……)


 黒い仮面をつけていること以外、ブラックのことは人々に知られていない。

 だからブラックがブラックであることを証明するためには、実力を示すしかない。


「……私がブラックだ。これがブランドン公爵からの依頼書だ」


 俺は胸ポケットから、依頼書を見せるが——


「そんなもの、どうせお前が偽造したものだろう!」


 と、よく確認もせずに、衛兵は俺にキレまくる。


 (おいおい。ちゃんと見てくれよ……っ!)


 俺はついつい、頭を掻いてしまう。

 ていうか、公爵家がこんな無能な衛兵を雇っていて大丈夫か?

 と、いろいろブランドン公爵家のことを心配していたのだが……


「おい。騒がしいぞ……」


 (おっ。やっとブランドン公爵がお出ましだ)


 ブランドン公爵が馬車から降りてきた。

 

「父上。この怪しい格好をした物が、自分はブラックだと言っているのです」


 俺を疑っていた衛兵が、ブランドン公爵に話しかける。


 (ち、父上……あの衛兵は、公爵令息だったのか?!)


 貴族の令息にふさわしい威厳がなかったから、ただの衛兵だと思っていた……ごめん。


「その依頼書はわたしが出した物……バカ者っ! この人は本物のブラックだっ!」

「え……っ? そ、そうだったんですか? いや、ただの怪しい者に見えてしまって……」

「S級冒険者だぞっ! ……我が息子の無礼を許してくれ、ブラックよ」


 ブランドン公爵は息子の頭を掴んで、無理やり頭を下げさせる。


「いや、いいんですよ。依頼書を見ないと、誰もブラックだとわかりませんから」

「すまない……では、もう一人の護衛が着いたら出発しよう」

「もう一人の護衛……誰ですか?」

「それは、勇者爵のセシル・アイベルクだ」


 ここで攻略対象のセシルが来るとは……

 セシルは勇者爵専用の武器——【聖剣デュランダル】が使える。

 ゲーム内では最強の威力を誇る武器だ。

 原作のシナリオでは、主人公ダストの味方になって、パーティーの主力として活躍する。

 

 (なんとかフェリシアたんの味方にできれば……)


 でもそれは無理だ。

 だってセシルは主人公ダストの攻略対象で、味方だ。

 フェリシアたんの味方にはならないだろう。


「……遅れました。勇者爵のセシル・アイベルクです。ブランドン公爵の護衛に参上しました」


 桃色の髪と、鳶色の大きな瞳。

 甲冑を纏って、腰には聖剣がある。

 白銀の姫騎士——その二つ名にふさわしい姿だ。


「おお……っ! 来てくれましたか! アイベルク勇者爵位がいれば、心強いですな」

「はい。必ずや公爵をお守りします」


 セシルはブランドン公爵にお辞儀した後、今度は俺のほうに顔を向けた。


「あなたがブラックか……?」

「ああ。そうだ」

「ふん。せいぜい、わたしの足を引っ張るなよ」


 (うん。セシルに嫌われてるみたいだ)


 正体を隠しながら難関クエストを攻略しているから、あっちこっちで噂になってしまった。

 セシルのブラックの悪い噂を聞きつけたのかもしれない。

 だが、冒険者はメンツが命だ。

 舐められては仕事にならない。

 だから——


「ふふ。白銀の姫騎士よ、それはこっちのセリフだ」

「……!」


 ブラックに言い返されると思ってなかったのか、かあ

っとセシルの顔が赤くなる。

 セシルはプライドの高い騎士。

 実力はあっても、どこの誰だかわからない冒険者に言い返されたら、すげえムカつくだろう。


「へ、へらず口を……迷いの森のモンスターは強い。もし助けを求めても、わたしは助けないからなっ!」

「あなたの助けなど、俺は要らないな」

「く……っ! 何があっても、絶対に助けてあげないんだらからねっ!」


 (このやりとり疲れるな……)


 ブラックはめっちゃくちゃ強いが、正体不明のすげえ傲慢な冒険者——といういかにも厨二病的なキャラ設定にしてしまったせいで、セシルと普通に話させない。

 まあこのキャラ設定には、ブラックの正体が皇族だとバレないようにする効果もある。

 たがら若干ダルいが仕方ない。


「では、そろそろ出発しよう」


 ブランドン公爵が馬車に乗り込み、俺たちは迷いの森へ向かった。



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※ この後、セシルはブラックに助けを求めることに……



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