第2話 水魔法の修行をする

「ルクス様……家庭教師をやめても良いでしょうか?」

「えっ? やめる?」


 ルクスの魔法の家庭教師、アリシア先生が言った。

 赤毛と青い目の美少女で——Aランクの魔術師。

 それが突然の、退職宣言だ。 


「どうして……? 俺、何かしました?」

「いえ、ルクス様が何かしたわけではなくて……」


 アリシア先生はひどく怯えている。


 (そうか。嫌われてるもんな。ルクスは……)


 「無能悪役皇子」と呼ばれる、ルクス。

 今まで何人もの家庭教師をセクハラ・パワハラで退職に追いやってきた。

 しかも、魔法の才能はない。


 (そりゃアリシア先生もやめたくなるよな……)


 俺は転生した日から、王宮の図書館に篭って、魔導書を読みまくった。

 アリシア先生の授業のない日は、一人で庭で水の玉を浮かせていた。

 魔力で水を生み出し、水を球状にして浮かす。

 魔力を操作する鍛錬だ。


 (これも推しを助けるためだ……っ!)


 このゲームの魔法には、5つの属性がある。

 火、水、土、風、雷の5つだ。

 俺が転生したルクスの属性は、水属性だ。

 

 (……正直言って、一番弱い属性だ)


 火属性や雷属性ほど攻撃力があるわけでもなく、土属性や風属性ほどサポート性能が高いわけでもない。


 (要するに、水属性は【器用貧乏】ってやつだ)


 ちなみに、主人公のダストくんは古代魔法を使う。

 古代魔法はチート級に強かった。


「す、すみません……も、もうどうしても無理で……」

  

 アリシア先生は、ビクビクしながら俺の顔を見ている。

 散々、ルクスはアリシア先生にパワハラしてきたから仕方ない。


「俺はもっと先生から教わりたいんですけど、アリシア先生がやめたいなら仕方ないですね」

「私がルクス様に教えられることはもうないです……」


 (そっか。早く俺から離れたいんだな……)


 もっとアリシア先生から教わりたいのだが、嫌われてるなら仕方ない。


「本当にすみません……」

「わかりました。俺、アリシア先生に酷いことしてきましたし……」

「い、いえ……っ! そ、そういうことではなく……」


 アリシア先生はうつむいて、身体を震わせた。


 (ガチで俺のことが嫌なんだな……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る