第3話 末恐ろしい人です アリシア視点

「末恐ろしい人です……」


 わたしはアリシア。

 ルクス皇子殿下の家庭教師です。


「水玉を5個も浮かせるなんて……」


 魔法の基礎である魔法操作。

 身体の中にある魔力回路を鍛えるために、魔力操作で水玉を浮かせる。


「ルクス皇子殿下の魔力回路は……すでにわたしを超えています」


 普通の魔術師なら、同時に操れる水玉は3個が限界だ。

 だけど、ルクス皇子殿下は16歳で5個も水玉を操れる。

 しかも、水玉の質がいい。

 きれいな球体を形成できているし、しかもサイズも大きい。

 これは、魔力を操るセンスが天才的なのだ。


「いったいいつの間に、こんなにルクス皇子殿下は変わったんだろう……?」


 今までのルクス皇子殿下は、まったくやる気がなかった。

 しかも、準男爵家のわたしを心底バカにしていた。

 帝国の貴族は、皇族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵家がある。

 皇族が頂点で、準男爵が底辺だ。

 ルクス皇子殿下は、わたしを大いにバカにしていた。

 はっきり言ってルクス皇子殿下――皇族の身分だけが取り柄の、ゴミクズ人間でした。


 (皇族に対して不敬でした)


「アリシア先生、どうかしましたか……?」


 フェリシア皇女殿下が、わたしの顔を覗き込む。

 そう。わたしは今、フェリシア皇女殿下に授業をしていたのだ。


「す、すみません……っ! 少し考え事をしていて……」


 (やらかしてしまった……っ! よりにもよってフェリシア皇女殿下の授業で……)


「へえ。何を考えてたの?」


 わたしは言おうか少し迷った後、


「……実は、ルクス皇子殿下のことです」

「ルクスお兄さまに、何かされてたの?」

「いえ、そういうわけでは……」

「わたしには言って! わたしからルクスお兄さまに言うから!」 


 フェリシア皇女殿下は、わたしの手を握った。

 ひどく心配そうな表情をしている。

 きっとわたしが、ルクス皇子殿下に意地悪をされたと思っているのだろう。


 (フェリシア皇女殿下に、ご心配をかけてしまっているわ……)


「実はルクス皇子殿下が……」


 わたしはフェリシア皇女殿下に、ルクス皇子殿下のことを話した。

 最近――ルクス皇子殿下が、変わったこと。

 急に魔力操作が上手くなっていることを、話す。


「ルクスお兄さまが……真面目に魔法の修行をしている……?」

「そうです。朝から魔力操作の訓練をして、夜は帝室図書館に篭っています」

「ウソ……怠惰なお兄さまなのに信じられないわ。」

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