第12話 モンスター狩猟祭 

「セシルはフェリシアたんに接触したか?」

「はい。セシル様は無事にフェリシア殿下の信用を得たようです」


 俺の専属メイド、シャーリーが言った。

 黒髪ばっつんの、小柄なメイドの美少女。

 シャーリーはメイドで暗殺者……と、いかにもラノベにありそうな設定のキャラだ。

 まあこの世界はエロゲだが。

 俺がブラックであることはシャーリーには話してある。

 現在通りの設定なら、シャーリーはダメ人間のルクスを見捨てて、ダストのメイドになるはずだった。


「ならよかった。セシルは常にフェリシアたんの側にいるように言ってくれ」

「はい。ルクス殿下、ところで……」


 シャーリーは戸惑った表情をして、


「何だ?」

「ルクス殿下は、なぜフェリシア殿下を『たん』づけて呼ぶのですか?」

「それは……フェリシアたんが、俺の『推し』だからだよ」

「推し……ですか?」


 何を言っているかわからない、と言った感じだ。


「ああ。推しとは全力で応援する相手のこと。俺はフェリシアたんを、皇帝にしたいんだ」

「ルクス殿下が、フェリシア殿下を好きなのはわかりました。しかし、私は——」


 シャーリーは、何か言いかけてやめる。

 そんなことをされると余計に気になる。


「どうした? 言いたいことは何でも言ってくれ」

「いえ……なんというか、そこまでフェリシア殿下に譲らなくても良いのではないですか?」

「譲る……?」

「皇帝には実力者がなるべきです。ですから、ルクス殿下が皇帝になるべきだと思うのです」


 (俺が皇帝になる……?)


 今までフェリシアたんを推すことだけを考えていた。

 まさか俺自身が皇帝になるなんて思ったこともない。

 皇帝——きっとかなり激務だよな。

 だって国のTOPだもん。ストレスがヤバそう。

 フェリシアたんをそんな皇帝にするのは酷だが、皇帝にならないと殺されるんだから仕方ない。 

 俺はなるべくフェリシアたんが楽できるようになるために、陰ながら支えていくつもりだ。


「いや、俺は皇帝にならない、優しいフェリシアたんを皇帝にしたいんだ」

「……そうですか」


 残念そうにするシャーリー。

 メイドからすれば、主人が皇帝になったほうがいいのかもしれない。

 皇帝に使えるメイド、になれるしな。


「で、そろそろ……始まるのか」

「モンスター狩猟祭の準備はできてます。ルクス殿下の指示通り」


 モンスター狩猟祭。

 帝国の各地に皇族が派遣され、討伐したモンスターの数を競い合う。

 優勝した皇族は、聖堂教会国との交渉を任さられる。

 いわゆる全権大使に任命されるのだ、


「もし全権大使になれば、皇帝への地位にグッと近づきます」

「ああ。フェリシアたんを勝たせないとな」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る