第11話 フェリシア、勇者を味方にする フェリシア視点

【フェリシア視点】


「フェリシア殿下、でございますか?」

 

 夜、王宮の部屋の窓から声がする。


「誰……?」

「わたしは、勇者爵家のセシルです」

「……っ! 勇者爵家の方が?」


 わたしは窓を開けた。

 窓には、鎧を着た美しい女性が立っている。


「いったいこんな夜中に、何の用ですか?」

「わたしの主人からの命令で、フェリシア殿下をお守りすることになりました」

「えっ? ど、どういうことかしら……?」


 突然「守ってあげます」と言われて、事態がよく飲み込めないわたし。

 わたしは皇族として暗殺の危機に常に晒されてきた。

 だから、わたしは簡単に人を信用しない。


「いったい誰の命令かしら……?」

「ブラック様、です」

「ぶ、ブラック様……っ?!」


(嘘でしょ……?! ブラック様がわたしを守るために勇者を派遣するなんてこと……ていうか、ブラック様がわたしのこと知ってる? えっ? えっ? そんなことが——っ!)


 顔が焼けるように熱くなる。

 憧れのブラック様に、自分のことが知られているなんて恥ずかしすぎるからだ。

 心の準備が、全然できていなかった。

 

「大丈夫ですか? フェリシア殿下……?」


 セシルさんが、わたしの肩を軽く揺さぶる。

 しばらくわたしは、呆然としていたらしい。

 深呼吸して落ち着いた後、わたしは1番気になっていることをセシルさんに聞いてみる。

 

「……どうしてブラック様が、あたしのことを知ってるのかしら?」

「それは……秘密です」

「秘密?」

「申し訳ありません。それは秘密にしてほしいとブラック様に言われました。ただ、ブラック様はフェリシア様の味方です。いつも陰から見守っていると」

「いつも……陰から……」


 もしかして、ブラック様はあたしの近くにいる?

 噂で聞いたことがある。

 ブラックの正体は——皇族の誰かだと。

 もしもブラックの正体が皇族ならば、おそらく正体はダストお兄さまだろう。 

 優秀なダストお兄さまならあり得る話だ。

 

 (いや、まさか、もしかして——)

 

 ある人物のことが頭をよぎる。

 無能で怠惰で傲慢なダメ人間……ルクスお兄さま。

 ダストお兄さまには遠く及ばない存在。

 そんなルクスお兄さまが、ブラック様——

 あり得ない。

 そんなこと、絶対にあり得ないわよね?

 ダメ人間のルクスお兄さまが、S級冒険者だなんて……

 たしかに最近は、すごく変わってきたらしいけど。


 ——確かめなくちゃ、いけない。

 わたしは思い切って、口を開く。


「ブラック様はあたしの近くにいる人……ダストお兄さま、かしら?」

「……すみません、わたしも正体は知らないのです」


 セシルさんは答えた。

 わたしは人の嘘を見抜くことができる。

 幼い頃から、謀略だらけの王宮で生きてきた。

 だから自然と、嘘をついている人はわかる。

 セシルさんは、嘘をついていない——

 本当にブラック様の正体を知らないみたいだ。


「わかりました。それで、セシルさんはわたしのことを守ってくれるのですね?」

「はい。我が主人の命令は絶対ですから」

「誇り高い勇者爵家のセシルさんが、わたしの味方になってくれるなら心強いです」

「……っ! はい! 命に代えてもお守りします!」

「ありがとう。でも、絶対に死なないで。わたしのために人が死ぬなんて耐えられないから」

「フェリシア様は、お優しいですね」

「違うわ。ただ、怖がりなだけ」

 

 帝位争いは……すごく怖い。

 わたしなんかじゃ、絶対に無理だ。

 たぶんダストお兄さまが、あたしを助けてくれるつもりなんだろう。

 きっと帝位争いは、ダストお兄さまが勝つ。

 ブラックの正体は、ダストお兄さまだ。

 間違いない。

 うん。ここはダストお兄さまに、従っておこう。

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