第8話 純白の拳銃
あの日、あたしが授かったギフトはレーヴァテインだけじゃなかった。
剣に槍、弓といった数々の神具が全部で四十種類。
ただその中から好きなものを選べるというわけではなくて、毎回違う神具が顕現してしまう素敵仕様となっている。たまに同じ神具が連続して顕現することもある。
父さんとの訓練時に顕現した神具が全部で四十種類だっただけで、もしかするとまだ顕現していない神具があるかもしれない。
今日の神具は何かというと、アクケルテと呼ばれる小型の真っ白い銃。
なので、試験官の問いかけに対してあたしは遠距離と答えるしかなかった。
今日の気分としては近距離用のレーヴァテインとかゲイ・ボルグといった赤色の神具が良かった。
このアクケルテは戦ってる感じがあまりしなくて、あたしの性格にはちょっと合わない神具だったりする。どうもあたしは近距離で戦える神具の方が好きなようだ。
ただその感情を無視して神具として素直に評価すると、このアクケルテは四十種類の中でもかなり強い部類に入る。
なぜなら、この真っ白な銃には弓使いや銃使いの人なら喉から手が出るほど、欲しいであろう能力が付与されている。
それは必中――狙った場所に真っすぐ飛び必ず当たるというもの。
射程距離は視界に入ったものは全て、また距離によって弾の威力が減衰することも、天候などの影響も一切受けることがない。
そんな神具を片手にあたしは試験開始の合図を待っていた。
試験内容は各自の神具で前方にある等間隔に並んだ五つの的を、一分間で一つでも射抜ければ合格、できなければ不合格というもの。
的も嫌がらせのように小さいわけでもないし、距離もあたしの歩幅で二十歩ほどしか離れていないにもかかわらず、まだ誰一人として合格していない。
合格者が出てこない大きな要因は的の前にいるフルプレートメイルの王国騎士。
その王国騎士は顔を覆い隠すヘルムで前が見えずらいはずなのに、手に持った盾で飛んでくる矢や弾を全部防いでいた。
彼の動きはここに来るまでに出会った王国騎士の中でも練度、精度がずば抜けて高かった。
盾を構えたまま王国騎士はこもった声で試験開始を伝えてくれた。
「試験時間は一射してから一分間である。準備が整い次第、撃ってくるが良い」
あたしは無言で頷くと、アクケルテの銃口を真ん中の的に向けながら引き金に触れる。
そっと目を閉じ、軽く一呼吸したのち指に力をいれ引き金を引いた。
アクケルテから放たれた銃弾は盾をかいくぐり、あたしの思い描いたとおり的の中心を撃ち抜いた。
あたしは左端から順に視線を移しながら、さらに引き金を連続で四回引いた。
五つの的を撃ち抜くまでに三秒もかからなかった。
あの王国騎士が重たい鎧を着ずにもっと身軽な服装だったら、結果は違っていたかもしれない。
彼にはあたしが撃ったアクケルテの弾道が見えていた。ただヘルムやメイルで動きが制限されたことで、体が対応できなかった。
重装備のおかげもあって、あたしは合格することができた。
その後、あたしは試験官の指示に従いまた別の場所に移動していた。
案内された場所は訓練場内の隅に建てられたぱっと見はただの物置小屋。
家具はおろか腰かけるイスも肘をつくテーブルもない。
あたしはそんな何も無い部屋でただ一人壁に背を預け座っていた。
時計が無いため正確な時間は分からないけど、もうすでに十分以上はここで待ちぼうけをくらっている気がする。
「なんだか……やることがなさ過ぎて眠くなってきた。だけど、試験会場で寝るのはマズいわよね」
あたしは眠気を飛ばすため立ち上がり体をググっと伸ばす。
ストレッチをしていると前方のドアが開いた。
ドアの先ではあたしと同じように試験官に案内されるクアンとクランの姿が見えた。
「おっ、リーティア。お前も合格できたんだな!」
「兄さん……まずはおめでとうって先に言おうよ。リーティア、合格おめでとう」
「クラン、ありがとう。あなたも合格おめでとう。あと、クアンもね」
「俺はついでかよ……ったく、リーティアおめでとう。これでいいか?」
「クランに免じて許してあげる。ということでクアン、合格おめでとう」
「はっ、なんだよそれ。まぁいいけどよ」
たった数時間別れただけなのに、二人と会うのが久々に感じた。
それから三人で自分たちが受けた試験について情報交換し合った。
二人から受けた試験のことを聞いた時、そっちもやってみたいなという感想が一番最初に浮かんだ。
試験内容は一対一で王国騎士と模擬戦をして、三分以内に一撃を与えることができれば合格、できなければ不合格といった簡単なもの。
もちろん王国騎士の装備はこっちと同じで全身フルプレートメイルで固めている。
ただやはりこっちも熟練者ということもあり、クアンの番が来るまで誰一人として一撃を与えることができなかったらしい。
二人の実力を知るためにも、今度何か理由をつけて模擬戦しようって誘ってみることにしよう。
決して自分が楽しみたいからという不純な動機ではない。
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