第3話 神の贈り物

 その後、あたしは授かったギフトを確認するため協会から外に出ていた。

 二人は自分のギフトが何か分かっているから、例え協会内で顕現したとしても問題ないかもしれない。だけど、あたしはその授かった瞬間の記憶が無い。

 授かったギフトが大きなものだったら、祭壇やベンチなどを壊してしまうかもしれない。


 あたしは日光を浴びながらググっと腕を伸ばし凝り固まった体をほぐす。

 肩からポキポキと小気味いい音が鳴っている。


 ギフトを顕現させる方法は単純で、神具を持ちたい方の手を広げ『ギフト』と唱えるだけ。

 ただ少しだけ不安な点もある。それはあたしが本当にギフトを授かっているのかということ。

 二人のようにギフトを授かる瞬間をハッキリと覚えているのが普通。


 あたしのように途中で気を失う人もたまにいるらしいけど、それでもギフトを授からなかった人は、今のところ誰一人としていないので大丈夫なはず。だって、あくまで何の信憑性もないただの噂話なんだから。


 あたしは一応念のため二人に離れるように伝えた。


「どんな神具が出てくるか分からないから、二人ともあたしから離れておいて」

「りょうかい。まぁ何かあれば俺のフランキスカで止めてやるよ」

「わたしもこのミトンで押さえつけるわ」

「なんか暴走する前提になってませんか……お二人とも?」


 リッザの神具はフランキスカという片手で扱える手斧。

 ライミの神具はミトンと呼ばれる防火性能のある手袋。


 この二人は何か理由を付けて手に持った神具をただ振り回したいだけなのでは、という不埒な考えが一瞬頭を過った。


 ふぅっと軽く息を吐いて呼吸を整える。 

 あたしは二人が見守る中、右手を広げ三文字の言葉を発する。


「――ギフト」


 右手が光に包まれると同時に手のひらに棒状の持ち手が現れた。

 それから数秒待ってみたけど、持ち手部分よりも先が構築されることはなかった。


 不完全な神具を授かってしまったのかと不安になり二人に視線を送ると、二人は空いている方の手で何度もギュッと握る動作を繰り返していた。


 あたしは二人の行動を真似して出現した持ち手を握る。

 その瞬間、光が消えると同時にあたしは一本の剣を握り締めていた。


 あたしの髪と同じ火のように真っ赤な剣。一部分だけ赤いとかでもなく刀身から柄頭まで全部が赤かった。


 リッザとライミは目をキラキラさせながら駆け寄ってくる。


「かっけぇー、なんだその剣!」

「リーティア、よく似合っているわよ。それでその剣の名前は何て言うの?」

「えっと……名前はレーヴァテイン」


 ライミから剣の名前を聞かれたあたしはすんなりと答えていた。

 一度も手にしたことも見たこともないはずの剣の名前を。


「レーヴァテイン、名前もカッコいいのかよ。だがまぁ俺のフランキスカも負けてねぇ」

「レーヴァテイン。うん、名前も見た目もリーティアにピッタリね」

「リッザのフランキスカもライミのミトンも二人にとても合ってるわよ」


 あたしたち三人は自分の神具を自慢し合いながら、それぞれの家に帰るのだった。


 家に帰ると母さんがお昼ご飯の準備に取り掛かっていた。

 食材を見る限り今日のお昼ご飯はパンとあたしの大好物である具だくさんのスープのようだ。


「母さん、ただいま~」

「おかえり。リーティア、あんた嬉しいのは分かるけど家の中ではそれ消しなさい」


 母さんは帰宅したあたしを見るや否や、すぐに手に持ったレーヴァテインを家に持ち込まないように忠告してきた。


「え~、授かった記念として今日ぐらいはいいじゃない」

「ダメです。それにその剣には鞘がないでしょ。ずっと持つわけにもいかないし、立て掛けておいて倒れたりでもしたら危ないでしょ。その剣先がそのお気に入りの服に向くかもしれないのよ?」

「でも~」

「リーティアそれ以上言うとお昼ご飯無しになるけど?」

「くっ……分かりました。ギフト」


 あたしはお昼ご飯のため渋々レーヴァテインを手放した。

 もう一度ギフトと声に出せば神具を消せることは、帰りの道中で二人から聞いて知っていた。

 ただ実際に消すのは今回がはじめてだった。


 母さんは少しだけ気恥ずかしそうにあたしに話しかける。


「よろしい。ちょっと小言を最初に言っちゃったけど、リーティアおめでとう。あなたの真っすぐな心を具現化したような綺麗な剣ね」


 それからあたしは協会で気を失ったことや二人のギフトのことなど、今日の出来事を母さんに話した。

 あたしの話を聞きながらも母さんはテキパキと料理を作っていた。

 しばらくすると、村の守備隊長をしている父さんが帰ってきた。


 父さんは元王国騎士でそこそこ偉い人だったらしい。本人は昔の話をしたがらないので、その情報が正しいのか不明だけど、王子を護衛する近衛兵だったとかなんとか。


「それじゃ二人ともスープが冷めないうちに召し上がれ」

「いっただきまーす」

「いただきます」


 あたしは母さんの手料理に舌鼓を打ちながら、子供の頃から抱いていた夢を両親に話すタイミングを見計らっていた。

 もし自分のギフトが戦闘用の神具だったら、あの人のような王国騎士を目指したいという夢。

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