第13話 初任務
「あ~、なかなかあいつら尻尾を出さないわね。もっと早く解決すると思っていたのに……」
あたしはひとりトリス村にある宿屋の一室でベッドに腰かけ、団長に呼び出された一週間前のことを思い出していた。
団長はあたしとリーガルがソファーに座ると同時に話し始めた。
「全員集まったか……では、時間も惜しいので手早く説明をする。一度しか説明しないからよく聞いておけよ。ここ最近、王都とトリス村を行き交う馬車が盗賊を襲われる事件が多発していることは知っているな?」
あたしたちは団長の話を妨げないように声に出さずに、肯定の意を示すためコクッと頷く。
一か月ほど前から王都とトリス村の区間で盗賊に略奪される事件が頻発している。
不自然なことに積まれた荷物は一つも盗られてはいない。それどころか一切荷物に手を付けていないのか、綺麗な状態で放置されているらしい。
ただ人だけが最初からその場にいなかったかのように消えている。
そして……その消えてしまった人が帰って来たことは一度もない。
「で、その事件を調べていた部隊がひとりを残して全滅した。……ほぉ、クランはもう私がこのあと何を言おうとしているのか理解したようだな」
団長はスッと目を細めクランに視線を向ける。
クランはあたしとクアンをチラッと見ると、眉をひそめ嫌そうな顔で団長に尋ねた。
「……僕たちでその盗賊団を壊滅してこいってことですよね?」
「まぁそういうことだ。今回の盗賊団は今までのやつらとは別格らしくてな、上層部でも頭を抱えている案件だ。あの従騎士がいなければ王国騎士団はやつらが潜伏している場所の目星すらつかなかった。そんな面倒な案件を好き好んでやりたがる部隊はいないようでな。上層部では誰にやらせるかで、ごたついている」
あたしは団長の言葉を聞いて愕然とした。
だって、国民が被害に遭っているというのに国民を守るべき王国騎士団はまだ何も行動していない。
盗賊から命からがら逃げ延びた従騎士から貴重な情報を得ることができたのに……。
その真実を知った時にはもうあたしは声を張り上げていた。
「それは……あまりにも!」
「あぁ、私もそう思う。だが、組織とはそういうものだ。それは王国騎士団だからといって例外ではない。だからこそ私は独立遊撃部隊――従順なる狼を立ち上げた。全て私財で賄えば色々と融通が効くのでな」
団長は嬉しそうにそう語った。ただ声に反して表情は少しばかり寂しそうに見えた。
その後、あたしたちは荷物をまとめ私服に着替えると、休憩するどころかお昼ご飯を食べることもなく、急ぎトリス村に向かうのだった――。
「トリス村に着いてから今日で五日目……あのリーガルがここまで手こずるなんて思いもしなかったわ」
あれからまたボヤキ続けていると、ガチャっとドアノブを回す音がした。
クランは部屋に入って来るなり呆れた様子であたしに声をかけてきた。
「やぁリーティア。今日もなかなか暇そうにしてるね」
「そりゃそうでしょ。五日目に突入したってのにまだアジトも見つからないし、ずっと部屋にこもってないといけないし!」
盗賊団のアジトはトリス村付近にあることは団長から聞かされていたので知っていた。あまりにも暇すぎて時たま忘れそうになることはあったけど……。
だって、仕方ないじゃない……あたしだけこの何も無い部屋でずっと待機なのよ。部屋を出るのはお風呂やご飯の時ぐらいで、それ以外の時間は部屋で大人しくみんなからの報告をただ待ってないといけないのよ。それが一日、二日とかならまだあたしだって我慢できるけど……さすがに五日とか長すぎませんか。こんなん誰だって、あたしと同じようになるわ。はぁ~、剣を思いっきり振り回したい……。
クランは駄々をこねる子供をなだめるような優しい口調で問いかける。
「あのね、リーティア……これも訓練だよ。団長から言われたこと覚えてる?」
「分かってるよ。クランたちが集めた情報をぼくがまとめて、あとで団長に報告するってやつでしょ。でも、それってぼくよりもクランの方が適任じゃない?」
「かもしれないけどさ、団長はリーティアを指名したんだから僕がとやかく言える立場にはないよ」
「う~ん、あの腹黒団長めぇ~」
「あっはっはっは。聞こえなかったことにしておくよ」
「それで――ただ雑談しに来たってだけじゃなさそうだけど?」
「もちろんだよ。今夜、盗賊団のアジトに忍び込むことになったから、その報告をしに来たんだ。そういうことだから、晩御飯を食べ過ぎないようにね。いざって時にお腹いっぱいで戦えないとか笑えないからね」
「あ~、うん。分かった」
クランはそう告げると部屋から出て行った。
あたしはまたひとりだけとなった部屋で、クランからの報告を整理することにした。
クランは確かこう言った『今夜、盗賊団のアジトに忍び込むことになったから』と、今夜ってことは今日の夜ってことよね。
いまの時刻は二時ちょっと過ぎってことはあと四時間ほどで日が落ちて夜になる。
アジトを襲撃するまでまだ四時間ある、逆を言えばあと四時間しかない。
えっと、えっと何を用意すればいいんだろ、とりあえず制服に着替えておくべきか、いやでもそれだと王国騎士だとバレちゃうし……あれ、あたしのギフトって今日なんだっけ、というかアジトを見つけたその日にいきなり襲撃しに行って大丈夫なの……なんか準備とかあるんじゃ……。
情報を整理しているはずがいつの間にか、ひとりパニックに陥っていた。
その結果、あたしは急激な眠気に襲われる。
普段あんまり使っていない脳を働かせ過ぎたようで限界がきたのかもしれない。
そんな夢の世界への誘惑に、もちろんあたしが勝てるわけもなく……。
「まだ時間あるし……ちょっとだけ寝よう。おやすみなさい」
次に目を覚ました時に見えたものはあたしを冷たいまなざしで見下ろす三人の姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます