第14話 隠れ家突入

 あたしはリーガルに案内されながら盗賊団のアジトにつながる洞窟を突き進んでいた。


 その洞窟はトリス村から西に徒歩一時間ほど進んだところにあった。そこはクリフォルス森林のように広大ではないけど、小さな村一つ程度なら余裕で隠せそうな木々が生い茂った場所だった。

 リーガルが一緒だったこともあり、あたしはここが洞窟の入口だと分かったけど、これがもしひとりで探すとなると、例え昼間だったとしてもあたしは見つけることができなかったかもしれない。


 足首ぐらいまで伸びた草が絨毯のように生えている。足元を注意しながら歩いていると、人ひとりだけ通れそうな地面に亀裂が入った場所がある。その亀裂が入った場所こそが洞窟への入口だった。


 洞窟内部は一歩先すら見えないほど真っ暗、その上ジメっとした湿気によって制服が肌にくっついてくる。制服が絹だからこそ、まだこれぐらいの不快感で済んでいると思うと、制服がウールとかじゃなくて本当に良かった。

 あと良かったと言っていいのか微妙なとこだけど、盗賊団の手によって移動しやすいように工事されていたことだ。

 降りやすいように階段が作られていたり、壁にはところどころ松明が配置されていた。

 その松明を灯すことができたらさらに良かったのだけど、その灯りで盗賊に気づかれてしまう可能性があったので、残念ながらそれはできなかった。


 また盗賊団のアジトを襲撃するのに制服だけでは防御面が心もとないということで、胸部にはキュイラス、腕部にはガントレット、脚部にはグリーヴを装備している。

 この防具一式もまた通常の王国騎士が身に着けるものとは異なっている。王国騎士に支給される武具は鉄製が主なのだが、独立遊撃部隊は鉄製ではなく全て銀製となっている。


 これらの防具は前もって洞窟付近に副団長が運び込み隠しておいてくれていた。

 四人分の防具を全部ひとりで……本当にありがとうございます、副団長。


 あたしは心の中で副団長に感謝しつつ真っ暗闇の中、壁に手を当て一歩ずつ洞窟を進みながら前を行くリーガルに話しかける。


「ねぇ、リーガル。本当にここが盗賊団のアジトにつながってるのか?」

「そうっすよ。この洞窟を抜けた先にあいつらの隠れ家があるっす。あっ、そこ足元、注意っす」

「りょうかい。というか、リーガルこの暗闇でよく平然と歩けるな」

「あ~、自分は暗闇に慣れさせるために洞窟に入る前に片目を閉じてたっす。あれならそこの松明、点けてもいいっすよ?」


 リーガルからの予想外の言葉にすっとぼけた顔で「……えっ、いいの?」と返答してしまった。


「大丈夫っす。この時間にはもうあいつらは酒飲んで寝てるっす。それに見張りは先行したクアンたちがすでに倒してるんで、洞窟を抜けるまでは安全っす」


 リーガルはそう言いながら壁にかかった松明を手に取り、火を灯すとあたしに手渡してくれた。


「ありがとう。これで壁に手を当てないで歩けるよ。それで……このいままでやってきた隠密行動の意味は?」

「それはまぁ――気分っすね。こっちの方が斥候って感じがしてカッコ良くないっすか?」

「あぁ……確かに斥候っぽいけど、灯りを点けてもいいのならもっと早めに教えて欲しかったかも」

「そうっすか。てっきり、自分はリーティアも楽しんでいる思ってたっす。そもそもの話なんすけど、本当に隠密行動しないとダメなら、まずこんな悠長にリーティアと喋りながら歩かないっす」

「あぁ……うん、確かにそれもそうか」


 その会話を最後にあたしたちはアジトを目指して黙々と洞窟を進み続けた。

 それから五分ほど進んだところで、やっと洞窟の終わりが見えてきた。


 洞窟の出口付近にはクアンとクランがあぐらをかいて座り、あたしたちが来るのを待っていた。

 その近くには双子によって、ダウンさせられた盗賊が地面に転がっていた。


 彼らは死んでいるのだろうか、それともただ気絶させられているだけだろうか。

 いや……きっと彼らはもう息をしていないのだろう。生きているのなら、身動きできないようにロープで両手両足を括ったり、声が出せないように猿ぐつわをしているはず……しかし、彼らはそのどれもされていない。その必要がないということはきっとそういうことなのだろう。


 彼らはいままで存分に好き勝手やってきたんだから、こうなったとしても仕方ない、仕方ないかもしれないけど……心臓をギュッと掴まれたように心が苦しくなった。


 クアンはそんなあたしの心境などお構いなしに欠伸をしながら話しかけてくる。


「よぉ、遅かったなお前ら。こっちは暇すぎて寝るとこだったぞ。あとその松明消しとけ。気づかれねぇとは思うが、用心に越したことはねぇからな」

「お待たせしたっす。それであいつらはいつものように爆睡中っすか?」

「だと思うぜ、灯りという灯りが全部消えてるしな。つっても、リーガルみたいに夜目ってわけじゃないから、断言はできねぇけどな」


 あたしは二人の会話を聞きながら松明の灯を消した。

 灯りがなくても月明かりによって、ぼんやりとではあるが外の様子を確認することができた。

 そこは人が住めるように洞窟を掘り進めて作った巨大な空間だった。

 本来ならあるはずの天井は円形状にくり抜かれ、そこから月光が空間全体を照らしていた。

 中心部には大小さまざま石を積み重ねて作った巨大なドーム状の建物があり、その周辺には木の枝や布、ロープなどを組み合わせて作ったテントが乱立していた。


 あたしは目に映った光景が信じられず、つい心の声が漏れてしまった。


「あの真ん中の丸いのもそうだけど、こんなのどうやったらできるのよ……」

「あー、それはだね――」


 その言葉を皮切りにクランの授業がはじまるのだった。

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