王国騎士に憧れる村娘は最強武器で成り上がる~あたしだけ毎回違う武器が出てくるけど、どれも強いので問題ないです~
虎柄トラ
第1話 神託の日
その日、あたしはとても懐かしい夢を見た。森で迷子になった当時三歳のあたしが王国騎士に助けてもらう夢。
十五歳になった今でも鮮明に覚えている。くしゃくしゃの笑顔に優しい声、竪琴から奏でられる心安らぐ音色。
「リーティアあんた。そろそろ起きなさい」
あたしはその声によって夢から覚め、現実に連れ戻される。もう少しだけ夢の世界にいたかったな思いながらもベッドから起き上がる。
「おはよう、母さん」
「はいはい、おはよう。そこに今日着ていく服を用意してるからさっさと着替えなさい」
机の上にはいつもの服じゃなくて特別な日に着る服が置かれていた。
あたしは母さんが用意してくれた服を広げながら尋ねた。
「母さん、今日何かあったっけ?」
「……あんた。本当に忘れてるわけじゃないわよね」
母さんは呆れた表情でこっちを見ている。
今日は自分の誕生日でもないし、両親の誕生日でもない。ましてや友達の誕生日でもない、村の収穫祭も来月だし、他に何かあったかな。
あたしは寝起きで回らない頭で必至にあれこれ考えてみるが全く思いつかない。
今日が何の日だったか全然思い出せないあたしに、しびれを切らした母さんはため息まじりに教えてくれた。
「今日は教会でギフトを授かる日でしょ」
「……ギフト?」
「そう、ギフト。あとリーティア早くしないと、そろそろリッザとライミがあんたを迎えに来るわよ」
「今日ってギフトの日じゃない!」
【
その授かったギフトによって今後、自分が歩む人生が決定されるといっても過言じゃない。
そしてあたしはそれほど重要なイベントをすっかり忘れていたようだ。
あたしは寝間着をベッドに脱ぎ捨てると、着替えるために椅子に避難させておいた服を手に取る。
特別な日にしか着ることができない絹で仕立てられたワンピース。
あたしはこのすべすべした肌触りに感動して、毎回袖を撫でてしまい気づけば時間が経っている。だけど、今日だけはその誘惑に負けず、すぐさま着替え朝の支度を済ませた。
「それじゃ母さんいってきます」
「いってらっしゃい。リッザ、ライミも気を付けてね」
あたしは母さんに見送られながら家を出た。
リッザとライミは友達というよりかはもうほとんど兄妹と呼べる仲。あと一人ライルという三つ歳が離れたあたしたちの兄さんがいる。ただライル兄は三年前に村を出て今は王都に住んでいる。
三人で協会に向かっている最中、隣を歩いているライミがこっちに首を傾け質問してきた。
「リーティア、さっきおばさんが言ってたけど、本当に今日のこと忘れたの?」
「いやまぁ~、昨日まではちゃんと覚えていたんだけどね」
あたしたちの会話を聞いていたリッザは後頭部で手を組みながら悪態をつく。
「リーティアが約束を忘れるのはいつものことだろ」
「確かにいつものことだけど、さすがに今日は嘘でしょって思うじゃない」
「あれ……ライミもそっち側?」
「あ~、ほら二人とも協会が見えてきたわよ」
ライミは逃げるように協会に向かって走り出した。
「ライミのやつ逃げたな。俺たちも走るとするか」
「ライミより先に協会に着くわよ、リッザ」
「おぅよ、任せとけって」
こうして謎の競争が始まるのであった。
「あったし~の勝ちぃ!」
あたしは教会の扉を開けながら勝利宣言をした。
二人は悔しそうにあたしが開けた扉を通り抜ける。
教会とはいっても無人で神父様は常駐していない。あたしたちが住む『クリフォルン村』は王都から徒歩で二週間、馬車でも十日はかかる辺境にある。
途中には『クリフォルス森林』という広大な森が、王都と村の往来を妨げるように広がっている。
そのため時期によっては通常の倍以上かかることもある。そんな不便な場所に好き好んで赴任してくる神父様はいない。
リッザは祭壇前まで進み、その場で振り返りあたしたちに声をかける。
「それじゃ準備はいいか」
「えぇいつでもいけるわよ」
「あたしも」
「サクッと終わらせようぜ。つうことでおっさき~!」
「あ~、リッザずっる。次はわたし~!」
「って、ライミお前もか~!」
リッザとライミは勝利したあたしを差し置いて、膝をつき手を組むと目を閉じる。
あたしは二人に続き同じ行動を取る。
ギフトを授かる際に神様に祈りを捧げないといけない。しかし、あたしはその祈りを捧げるという行為そのものについてある疑問が浮かぶ。
そういえば神様に祈るって何を祈ればいいんだろう。あれかな、ギフト頂戴って念じればいいのかな。
膝をついたまま静かに目を開け二人に目を向ける。二人とも相当手に力が入っているのか血管が浮き上がっている。
何を祈ればいいのか分からないけど、とりあえず目は閉じておくとしよう。
目を閉じてから数秒後、明らかに前に比べてまぶたを通して感じる日差しが強い。元々ステンドグラスから入る日差しはそれほど強くない。なのに、今は教会の外で目を閉じた時に感じるような日差しの強さ。
さすがにこれは何かおかしい。
あたしはその原因を確認するため目を開けた。
そこはトランプみたいに切り揃えられたカードの束が大量に置かれた真っ白な部屋。
不思議なことにランプなどの光源がないのに部屋全体が明るい。
ただそれ以外は何も無いどころか外に通じる窓も扉も無い密閉空間。
「う~ん、どう見てもここはさっきまでいたあの教会じゃないわね」
あたしは自分が置かれている状況を理解できず、そんな分かり切った感想を述べることしかできなかった。
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