第23話 初任務の記憶
あたしが王都に戻ってから二週間が経過した。忘却していたあの記憶も今では完全に思い出していた。毎日毎日、朝を迎えるたびにそれは鮮明になり、部外者のような立ち位置だったあの記憶も当事者として認識できるようになっていった。
思い出したからこそ、実感がわいたからこそ、あの日の出来事を夢で見ることがある。ただその夢は少しだけ現実とは違っている。
夢の内容は大体毎回同じとなっていて、トーマスさんたちが繋がれていた牢屋へと続く階段を下りているところからはじまる。また夢の中では四人じゃなくてあたし一人だけで任務にあたっている。階段を下りきったところで本来なら壁に松明が等間隔で配置されていたのだが、夢の中では松明などの光源は何一つ存在しない。なのに視界は確保されていてクッキリと周囲の様子を見ることができる。そのまま左右にある空虚な牢屋を無視しながら前進していくと、カンカンと金属を叩く音が聞こえてくる。音の発生源である牢屋まで進むと、リックさんがスコップで鉄格子を叩きながらこっちを見ている。その牢屋の奥にはトーマスさんがあぐらをかいて座っている。現実では救出した時のトーマスさんは今にも死にそうなほど弱り切っていた。だけど、夢の中では初めて会った頃の健康的な姿になっている。それからフラガラックで鉄格子を斬り牢屋から二人を救出し出口に向かう。そして出口付近であたしは手に持ったフラガラックで見張りを背後から首を斬り落とす。その落ちた首はゴロゴロっとこっちに向かって転がり、最後には足に当たって止まる。そしてあたしが見下ろすと足元にある首と目が合って、そこで夢が終わりあたしは目を覚ます。
それで今日はどうなのかというと、もちろん今日も同じ夢を見た。昨日までのあたしだったら、またいつもの目覚めの悪い朝を迎えていたかもしれない。だけど、今日のあたしは絶好調なのである。
それは昨日のちょうど晩ご飯を食べ終えた頃だった。あたしは一人また一人と自室に戻っていく団員を横目に食後のコーヒーを堪能していた。嗜好品とされ高値で取引されているコーヒーを飲めていること自体がありえないが、それに新鮮な牛乳と真っ白い砂糖をたっぷり入れている。
団長やガテンルーザさん、それにロウは何も入れずに真っ黒いコーヒーがお気に入りだそうだ。それ以外の団員はあたしと同じように牛乳なり砂糖を入れて飲んでいる。
一口飲むたびに平民のあたしがこんな恐れ多い飲み物を飲んでも良いのかという罪悪感に苛まれる。
団長が言うにはたったこの一杯だけで、あの白いパンが十個は余裕で買えるらしい。
「初任務のご褒美なんだから、今はそのことを忘れて味わっておかないと損よね。それにしてもコーヒーだけだとただ苦いだけなのに、こうやって牛乳や砂糖を入れるとこんなに美味しくなるのって不思議」
はじめてのコーヒー体験のことをつい語ってしまったけど、そこはいまはどうでもいいのよ。えっと、そのあとにカレン姉から貰った手紙が重要なのよ。その手紙の差出人はあのトーマスさんだったの。手紙の内容を簡潔にまとめるとこんな感じ、体調もすっかり戻って元気になったからお礼の品を持って行くよ。とまぁそういうことがあって、今朝のあたしはロウにも起こされることもなく、一人で起きて制服に着替えて朝食をとり、トーマスさんが来るのを今か今かと待っている。
ただ大人しく待つこともできそうにないので、その高ぶる気持ちを抑えるためにも朝早くから訓練に明け暮れている。
トーマスさんとはそれほど面識があるというわけじゃない。それでもお世話になった人が元気になった姿を見えれるのはただただ嬉しい。
訓練をはじめて三時間ほどが経過した頃、ロウが遊び場にやってきた。
「な~にロウ?」
「いやそろそろ昼飯だから呼びに来た」
「えっ、もうそんな時間なの。分かったわ、ありがとうロウ」
あたしは本日のギフトであるアスカロンを手放し消失させると、迎えに来たロウに走り寄る。
「なぁリーティア。お前さ、トーマスさんの手紙はちゃんと読んだか?」
「えっ、もちろん。読んだに決まってるじゃない」
「そうか。なら聞くが、トーマスさんが今日来るとは限らないぞ?」
「うん……どういうこと?」
「トーマスさんは近日中に行くって書いてくれてたよな。んでだ、近日中ってのは人にもよるが大体一週間以内ってとこだな」
「えっ、そうなの……」
「お前のその気持ちも分かるけどな。とりあえず汚れを落としてこい。じゃねぇと飯抜きだからな」
だが、この時のロウの予想は大きく外れることになる。
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