第6話 驚愕の事実

 村を出てから八日が過ぎた。

 クリフォルス森林を抜けるのに三日、そこから北上すること五日。

 予定では到着するのに九日かかると思っていた『トリス村』に一日早く到着した。

 ここから王都まで徒歩で四日ほどかかるので、本来ならその確保した一日という貴重な時間を無駄にしないように、この村をスルーして王都を目指すべきかもしれない。

 だけど、あたしはその選択肢を捨てこの村で一泊することにした。

 この村で一泊するのを決めた理由は、ずっと野宿だったので暖かいご飯やベッドの誘惑に勝てなかったこと、それともう一つこの村に遍歴商人が滞在していたこと。

 

 遍歴商人というのは拠点を持たず村や町を移動して商売をする人のこと。

 商品を馬車に載せて移動する手前、盗賊などに襲撃されるなど危険と隣り合わせ。

 そのため遍歴商人は身を守るために護衛をつけていることが多い。

 護衛期間は基本的に次の村や町まで、そこからまた移動する時は滞在しているところで、新しい護衛を募集する。


 幸いなことにその遍歴商人のトーマスさんが次に向かう先が王都だった。

 あたしは護衛する代わりにその馬車で王都まで乗せてもらう約束を取り決めた。

 トーマスさんはあたしのギフトを見ることも、戦闘経験について一切聞くこともなく即決していた。

 そのことを後で聞いてみると、トーマスさんは一言「商売上、人を見る目はあるんです」とだけ答えてくれた。


 馬車だと遅くても三日で王都に着く。徒歩で向かうのとたった一日しか変わらないけど、ずっと歩き続けるのと座りながら移動できるのでは、体にかかる負担が全然違う。

 馬車は馬車で道によっては座っているのも辛いほど激しく揺れることもあるので、そういう時は降りて徒歩になる。


 トリス村で一日ゆったりと過ごしたことで英気を養うことができた。

 宿屋の店主に鍵を返却し、集合場所である北門に向かう。

 歩きながら時計台に目を向けると出発時間の八時まで、まだ二十分ほど余裕があった。


「ひっさびさに熟睡できたわ~。襲われる心配を気にせず眠れるって最高ね。さ~てと、ちょっと気持ち早く来たけど……あれ、あの馬車なんか見覚えが?」


 北門に近づくにつれ状況がハッキリと見えてきた。もうすでにトーマスさんが出発の準備を済ませ待っていた。あたしは急ぎ北門に向かって走った。


「おはようございます、トーマスさん」

「リーティアさん。おはようございます。王都に着くまでの三日間、護衛の方よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「少し早いですが皆さん揃いましたので、出発しようと思うのですがよろしいですか?」

「あっ、はい」

「ではそちらから中に入って下さい」


 トーマスさんはあたしに馬車の中に入る様に促す。

 馬車の中は食品、衣類から武具まで色んな商品が置かれていたが、そのどれもが混ざることもなく綺麗に整理整頓されていた。


 商品以外にもあたしと同じ目的であろう二人組が乗っていた。

 その二人組はどちらも灰色の髪に金色の瞳を持った同じ顔をした少年だった。

 

「それでは王都に向かいます。皆さん、道中よろしくお願いします」


 あたしが乗り込むと同時に馬車はゆっくりと動き出した。

 道はなめらかに舗装されていて振動が腰にくることもない。

 この馬車に乗れて本当に良かった。


 あたしはこれから三日間ともにする双子に自己紹介も兼ねて挨拶しようとしたが、彼らに先を越された。


「よぉ、お前も王国騎士の試験を受けに行くのか?」

「兄さん、その前にまず自己紹介するべきだと思うよ。えっと、ガサツなのが兄のクアンで僕が弟のクランです。どうぞよろしく」

「あたしはリーティアっていうの、よろしく」

「俺の名はクアンだ、よろしくな。っで、一つ気になったことがあるんだが聞いていいか?」

「な、なに?」

「なんでお前……男なのに自分のことをあたしって言ってんだ?」

「えっ……」


 着慣れてしまい完全に忘れていた。自分が今着ている服が男性用だということに。

 そのうえ髪も短くしてしまっていることで、女性だと認識されにくくなっているようだ。

 確かにクリフォルン村でもトリス村でも、女性の髪は短くても肩にかかるぐらいには伸びているのが普通。

 それに対してあたしの髪は肩どころか首が見えるほど短く切っている。

 後ろ姿だけ見れば男性だと勘違いされることはあるかもしれないと思っていた。

 ただそれでも面と向かって話しているのに、男性だと勘違いされるなんて思ってもみなかった。


 どう返答しようか考えていると、クランの口から衝撃の事実を突きつけられた。


「すいません、兄は言葉がきついので。えっとですね、そんな弱々しい喋り方で男しかいない王国騎士団に入れたとして、この先やっていけるのか。と兄は言ってます」

「男しかいない?」

「王国騎士になれるのは男性だけらしいです。村に滞在していた王国騎士の方にも聞いてことがあるのですが、男性しか入団することができないと断言していたので確かだと思います。僕たちはそういった点では合格なので、あとは試験に受かるだけですね」

「そ、そうだね」

「どうかしましたか、リーティアさん?」

「いや、何でもない。周りが女性ばかりだったから、この話し方が普通だと思ってたんだ。あたし……ぼくの話し方が変だと感じたら、そのたび注意してくれないか。ぼく自身じゃ気づけない箇所もあるかもしれないし……」


 あたしは話を合わせるため咄嗟に男性だと嘘をついた。

 クアンとクランはあたしの言葉を信じてくれたようで、何かあれば指摘すると約束してくれた。

 二人の優しさにあたしの心は感謝よりも罪悪感という負の感情でいっぱいになった。だけど、もう後戻りはできない。

 見た目は騙すことができたとしても、話し方で女性だとバレてしまうかもしれない。

 そんな理由で諦めるなんて絶対に嫌。だから、あたしは王国騎士になるため男性と偽ることにした。

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