第15話 死者の招待状
秘石を受け取った僕だが、その日は特に変わったことも無く一日が終わろうとしていた。
「安心するのはまだ早いキノ」
ベッドに入って寝ようとしたらキノッピーが出てきて僕に警告してきた。
「そうなの? さすがに今日はもう何もなさそうなんだけど……」
「さっき受け取った秘石だが、アレはかなり厄介なものだキノ」
「えっ、そうなの? そもそもキノッピーはアレを知ってるの?」
僕は秘石をキノッピーが知っていることに驚いた。
「当然だキノ。ワシのいた世界ではソウルストーンと呼ばれるものだったキノ。人間の魂を食らってエネルギーにするものだキノ。おそらくヤツの言っていた賢者の石というのは、そのエネルギーで魔法を発動させることができるアイテムなんだキノ」
「……ということは、賢者の石は何でも願いが叶うわけじゃないの?」
「そのはずだキノ。だからヤツも言葉を濁したんだキノ」
どうやら、全部集めたとしても思い通りの願いが叶うものではないらしかった。そのことに僕が意気消沈していると、キノッピーは自信満々に胸をドンと叩いた。
「ワシに任せるんだキノ。ワシの力があれば、そのエネルギーで発動させる魔法を変えられるキノ」
「ホント!?」
「だから、安心して葵は魔王の眷属として人類を蹂躙すればいいキノ」
「……」
さりげなく魔王ムーブを差し込んできたキノッピーをジト目で見ると、冷や汗をかきながら弁解を始めた。
「じょ、冗談だキノ。でも、頑張って全部揃えるんだキノ。そうすれば、あとはワシが何とかするキノ」
……コンコン。
「ひぃぃぃ、やめるんだキノ。キノッピーは焼いても美味しくないんだキノ」
「いや、何もしていないよ。っていうか、僕はキノッピーに危害を加えられないんじゃないの?」
「いやいや、敵意とか殺意だけなんだキノ。食欲には効果が無いんだキノ」
ずいぶんと中途半端な制限であった。もっとも、人よりは小さいとはいえ立派なキノコであるため、あまり食べたいとは思わないのだが……。
……コンコン。
「あれ、何かが窓を叩いている?」
僕が窓を開けると、そこには一匹のカラスが屋根の上に立っていた。しかし、ただのカラスでないことは、首が異様な曲がり方をしていることから明らかだった。
「やあ、葵ちゃん。久しぶりだね」
「水樹さん!?」
そのカラスから聞こえた声は、先日の事件で僕たちの教室にやってきて僕たちを助けてくれた黒羽水樹だった。
「これは一体……」
「なに言ってんの。前にお礼は今度するって言ったでしょ。だから、こうして連絡したわけよ」
「別にスマホとかでいいんじゃないの?」
「番号交換し忘れてたんだから仕方ないじゃない。まあ、これで連絡取れるし問題ないかなって」
どうやら、彼女は僕が思っていたよりも大雑把な人のようだった。あまりの大雑把さに唖然としていると、突然カラスが笑い出した。
「あははは。そんなに驚かなくてもいいじゃない。まあ、お礼もあるんだけど、今後のことも話したいなと思ってね。アイツのこととか、それから……秘石のこともね」
秘石のことについて切り出されたとき、僕は思わず言葉に詰まってしまった。彼女もその様子に気付いたようだ。
「ああ、やっぱり秘石持ちだったのね。あの後に貰ったのでしょう?」
「はい。昨日、スペルビアという人がやってきて……」
「ふぅん。傲慢か……」
「傲慢? いや、僕はそんな……」
「いやいや、葵ちゃんのことじゃなくて、アイツらのことよ。私のところにはアケディアってヤツが来たわ。そいつはラテン語で怠惰って意味ね。そして、葵ちゃんのところに来たスペルビアはラテン語で傲慢ってこと」
「ラテン語……ですか?」
「そそ、どうもあいつらは七罪に当てはめた名前をしているらしいのよね。あの男――
僕はアイツの姿を思い返しながら話を聞いていた。僕の心の中に燻っていたわずかな憎悪が膨れ上がるのが分かった。
「そこで今後のことなんだけど、ひとまずは協力したいと思ってるの」
「協力ですか?」
「私も葵ちゃんも秘石持ちだけど、私としては今のところ葵ちゃんと戦うつもりはない。それに……。私も葵ちゃんもアイツを倒したいと思っている。そうよね?」
「それは……」
「それに……アイツと戦って分かったのよ、今の私では歯が立たないってことがね。悔しいけど……、今のままじゃ姉さんの仇を取れないわ。だから、葵ちゃんの力を借りたいの」
「……そう言うことであれば、わかりました。協力します」
僕は完全に彼女を信用した訳ではなかったが、少なくともアイツが共通の敵であることは間違いないので、彼女の申し出を受け入れることにした。
「ありがとう。また借りを作ることになっちゃうわね」
「い、いえ、そんなことは。私も水樹さんほどではありませんがアイツを許せないのは一緒ですから……」
「ふふっ。そしたら明日、葵ちゃんの学校の隣にある喫茶店で……。そうね、13時くらいでどうかしら?」
「わかりました。何か持っていくものはありますか?」
「そうね……。戦いになる可能性があるから、その準備だけはお願いするわ。本人は来ないと思うけど、アイツには手下もたくさんいるから……」
「手下……? でも、秘石持ちって狙われるんじゃないの?」
秘石持ちは同じ秘石持ちだけでなく、そうでない異能者からも狙われる可能性があると思っていた僕にとって、アイツが手下を従わせていることに違和感を感じた。その違和感から発せられた問いに水樹さんも大きく頷いた。
「そう、本来なら手下から反逆されるのが普通でしょうね。でも、アイツは異能を使って縛り付けているのよ」
「異能で?」
「そう……。使うには互いの合意が必要になるけど、悪意を持った場合に燃やし尽くすようにしているのよ」
その異能の使い方に僕はキノッピーとの契約と近いものだと思った。あれも同意が必要で、契約に魔法少女状態という状態異常を引き起こし、それは悪意に反応して意思を反転させるものだった。そう考えると、アイツは僕たち以上に異能を研究して使いこなしていることがわかる。
「もしかして……。アイツが逃げたときに炎に包まれたのも?」
「そうよ。あれもアイツの技の一つ。でも、私なら……あの技に対処することができるはずよ」
「本当ですか?!」
「……ちょっと長く話し過ぎたわね。詳しいことは明日話をしましょ」
「あっ、ちょっ!」
僕が止める間もなく、カラスの身体から力が抜け、屋根の上に横たわった。
「ちょっと……死体の処理までやってよぉ……」
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