第13話 性能テスト
昨日、僕は人を殺した。相手は異能者だったが、それでも僕にとっては初めて人の命を奪ったことになる。しかし意外なことに僕はショックを受けていなかった。
「ワシの力を受けたのだから当然キノ。そもそも魔王は人類の敵として戦争してるキノ。襲ってくる敵にいちいち感傷に浸る訳がないキノ」
どうやらキノッピーの力を受け取ったことで、僕は魔王の眷属という扱いのため罪悪感を抱くようなことはない、ということであった。ただ、これはあくまで敵と認識した相手だけで、一般人を虐殺した場合は対象にならない、ということらしい。
「魔王……。というか、ホントにキノッピーは魔王なの?」
どう考えても手足が生えたキノコにしか見えない僕にとって、彼が魔王だというのがいまだに信じられないでいた。
「むむ、ワシの力を疑うキノ? そもそもワシ自ら戦うことは無いキノ。眷属たる魔法少女が代わりに戦うキノ。魔法少女の力はお主が直に体験しているからわかるはずだキノ」
キノッピーは直接的な戦闘能力は無いようで、戦いは眷属の魔法少女任せらしい。
「ってことは、僕がキノッピーをサクッと倒すこともできるってこと?」
「まともに戦えれば倒されるキノ。でも、魔法少女がワシへの悪意は自動的に逆転するようになってるキノ」
どうやら敵意を持ったりすると反転して好意を抱くようになるらしい。その意思の強さによって反転した後の好意も上がっていくらしく、殺意を抱くと逆に発情するらしい。さすがの僕でもキノコに発情するのは色々と不味いとわかる。
「それはそうと、なんで眷属になるのに女の子になるのか分からないんだけど……」
「それはワシの眷属に与える力によって魔法少女状態という状態異常が付与されるからだキノ」
「魔法少女状態?! なにそれ?」
「魔法少女状態というのは
「もしかして、契約した時の胞子が原因?」
僕は契約した直後に胞子まみれになったことを思い出しながら訊いてみた。
「そうだキノ。ワシは
僕が女の子になったのは、まさかの状態異常が原因だったようだ。しかしながら、キノッピーのお陰で窮地を脱したのは間違いないので、それについて文句を言うのは筋違いと言うものだろう。
「なるほど……。それで、この状態異常はどうすれば解除されるの?」
「ワシの胞子は魂に定着するから解除不能キノ。魔王の付与する状態異常が簡単に解除できるわけがないキノ!」
ドヤ顔で魔王アピールをしつつ、絶望的な宣告をするキノッピーだった。しかし、魔法少女である以上、年齢の問題が付きまとうため、何としても問いただす必要があった。
「えっ?! でも、僕が成長して30代になったらどうするのさ! その年で魔法少女とか痛いと思うでしょ?」
「魔王の眷属になったのだから見た目は人間でも種族的には魔族なんだキノ。年齢で姿は変わらないし、寿命も最低でも数千年になっているキノ」
「マジかぁぁぁぁ!」
僕は思わず声を張り上げてしまう。僕の身体は数千年もの間、ずっとロリ体型で生きなければいけないことに絶望した。
「安心するキノ。年齢的な成長はないけど、その体型でも子供は作れるキノ」
「安心する部分が違うんだけど……」
「それに強くなれば見た目も変わっていくキノ。葵なら背も伸びるし尻尾も増えていくキノ」
どうやら強くなっていけば、身体は成長していくらしいので、僕はひとまず安心した。
「それだけじゃなくて、新しい技も使えるようになるキノ。葵ならきっと魅了も使えるようになるキノ。その力で好きなだけオスとまぐわえばいいキノ!」
「うっさいわ、エロキノコめ!」
「痛いキノ! ちょっ、何をするんだキノ!」
ドヤ顔で余計なことを語るキノコの後頭部をスリッパで引っ叩く。そして首根っこを掴むと僕の身体の中に押し込んだ。
「さてと、今日は魔法の特訓でもしようかな?」
キノッピーを大人しくさせて、僕は近くの公園へと向かう。休日になると人通りの多い公園も平日の今日はまばらにしか人がいなかった。
まずは準備運動がてら耳と尻尾を出してみることにした。あれから色々と試したところ、耳と尻尾に限っては変身しなくても出すことができることが分かった。出した尻尾を振り上げて地面に叩きつけると、地面が少し凹んだ。
「尻尾だけでも結構威力あるなぁ」
尻尾の威力を確かめられたので、次に軽く体を動かしてみた。全力でジャンプをすると2mほど飛び上がることができ、左右のステップは1分間で360回ほど行うことができるようになっていた。
「身体能力は変身しなくても上がるみたい……」
人間離れした身体能力に驚く。その後も調べていくと、身体能力については変身しなくても向上することが分かった。一方で魔法を使うのは変身が必要らしく、この状態では1つも成功させることができなかった。
「魔法はだめかぁ。そう言えば、異能はどうなんだろ?」
キノッピーが僕の目の前に現れた原因ははっきりしない。しかし、僕の異能が原因なのだとしたら、他にも呼び出せる可能性があった。ためしに僕は何もない空間に向かって助けを求めるように祈りを捧げてみる。
「お願いです。助けてください」
人通りが少ないとはいえ公の場である。助けを求める言葉も棒読みっぽくなってしまうのは仕方のないことだった。
「くははは、キノッピーを倒していい気になっているようだな、勇者よ。だがヤツは我らが兄弟の中でも最弱……。あれ? ここはどこだ?!」
僕の目の前にはキノッピーと同じように手足の生えたキノコが浮かんでいた。それは僕を見て、空中で腕を組みながら見下ろしていた。
「この魔王キノップを呼び出したのは貴様か?! 用があるのならとっとと言え。我は暇ではない」
「えっと……」
キノップの尊大な態度に僕は「ノリで呼び出した」とは言えず、言葉を詰まらせる。
「用なんて無いキノ。とっとと元の世界に帰るキノ」
「む、貴様はキノッピー。生きていたのか?! うわ、やめろ!」
突然現れたキノッピーがキノップを強制的に元の世界に追い返してしまった。
「葵よ。ワシと言うものが居ながらキノップなどという雑魚を呼び出すなキノ」
「えぇ、ちょっと異能が使えるか試してみただけなのに……。それにさっきキノッピーのことを最弱って言っていたような」
「あんな奴の言うことを信じるとは情けないキノ。ワシこそが最強の魔王なんだキノ」
「強さは分からないけど兄弟なんでしょ?」
身内なら仲良くすればいいのにと思いながら訊くと、キノッピーはため息をつく。
「兄弟だが後継者争いをするライバルなんだキノ。それに奴とは考え方が合わないキノ」
「そうなの?」
「ワシは眷属を魔法少女にして力を与える。だが、奴は眷属をマッスル少女にして力を与えるのだ」
「マッスル少女!?」
僕は聞いたことのない言葉に思わず訊き返してしまう。
「そうだ、奴は筋肉こそ全てという理念を持ってるキノ。だからムキムキになるキノ」
「女の子になるのは変わらないんだ……」
二人の関係は僕には分からなかったが、呼び出したのがキノッピーで良かったと思った。
「君が相沢葵くん、いや葵ちゃんだね?」
僕は背後から全身に黒い服をまとった男に背後から声を掛けられた。
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