第5話 はじめての下着
「おじゃましまーす」
「ささ、いつものように私の部屋に行くわよ」
彼女の家に上がる時のいつものやり取り。しかし、1つだけ違うのは僕の身体が女の子になってしまったということ。
「なんか落ち着く部屋だね……」
まっすぐに通されるいつもの部屋。だが、今日はいつもと違って見えた。
「何言ってんのよ。何回も来たことあるでしょ?」
「いつもは女装されるというプレッシャーで落ち着いた気分になったことなかったからだよ!」
「ふふん、葵ちゃんもガチ女の子になって女装も気にならなくなったということね!」
「言い方! まあ、それはそうなんだけど……。それはそうと、そこにある段ボールは何?」
僕は、部屋の中央に鎮座している巨大な段ボールを指さした。
「それは私の小学校の頃の衣類よ。もちろん下着もあるわよ。どうせ服なんて無いだろうと思ったから用意しておいたのよ」
「下着はいらないと思うんだけど……」
「もう履いてるし、今さらでしょ」
「そうでした……」
すでに僕は学校から撤退するために彼女から下着を含めた服を借りていたことを思い出した。その一方で、僕自身が今だ女の子の身体になったことを完全に受け入れられていなかったため、彼女の履いた下着を自分が履いていると考えるとイケナイことをしている気分になってしまう。
「もう……。何いまさら顔を赤くして恥ずかしがってんのよ。お姉さんのお下がりだと思えばいいじゃない」
「そんなこと言ったって、まだ心が追い付いていないんだから仕方ないじゃないか!」
「この際だから、今後は私のことは美咲お姉ちゃんって呼びなよ」
「えぇぇ……」
僕は必死に彼女に訴えかけるが、彼女は呆れたように肩をすくめるだけだった。
「やれやれ、そのうち否応なく受け入れざるを得なくなると思うけど、今のところはそれでもいいわ。でも、男をあまり信用しすぎないようにしないとダメよ。電車の中でも痴漢されそうになったでしょ?」
「……そうだよね」
「幼馴染だけど未散にも気を許しすぎちゃダメよ。男だと思って少し警戒するくらいでないとね」
「ええっ? 別に未散ならそんな必要は無いと思うけど……」
「そんな甘いこと言っていると痛い目に遭うわよ。別に表立って警戒しろって言ってるわけじゃないのよ。さりげなく注意を払うくらいはしておかないと、いずれ困ることになるわ」
「……うん、わかったよ」
僕は未散まで疑わなければいけないと言われたことを否定したかったが、先ほど痴漢に襲われかけたこともあって、どうしても否定することができなかった。
「さて、その話は一旦終わり。早速着る練習していこうか!」
「練習って……。子供じゃないんだし着替えくらい普通にできるよ!」
「甘すぎるわ! 女の子の下着は着けたことないでしょ? さっき渡したスポブラと子供パンツなんかと一緒にしちゃダメよ!」
「そんなこと言うけど、美咲だってちゃんと着けてるでしょ?」
「……美咲お姉ちゃんだって言ってるでしょ。やり直しね!」
「そんなこと言うけど、美咲お姉ちゃんだってちゃんと着けれてるでしょ?」
「そんなこと言うなら、ここで付けてみなさいよ!」
そう言って、僕の前にハイレグのショーツとホック式のブラジャーを置いた。着替えるために全裸になる必要があるのだが、彼女が見つめる中で下着まで脱いでいると、まるで自分がストリップショーをしているような気分がして羞恥心を刺激される。
「ほらほら、恥ずかしがってないで全部脱いじゃいなよ。いつも着替えてるでしょ?」
「いつもは下着まで脱いでないじゃない。それに女の子の前で全裸になるのは、まだ抵抗が……」
「もう、自分だって女の子じゃないのよ。それともお姉さんが着せ替えしてあげようか?」
「1人で着替えられるもん! 変な目で見ないでよね!」
「まったく、ちゃんと着替えられるか見てあげているだけじゃない。それに、変に隠すと余計にエロく見えるからね」
意を決して全裸になった僕だが、彼女の視線が気になって胸と股間を手で隠すような格好になってしまう。そのことを指摘されて、変な想像をしてしまい余計に顔が火照ってしまった。
「もう! そんなこと言わないでよ! 余計に気になっちゃうじゃない!」
僕はぷりぷり怒りながら、受け取ったショーツを履いていく。
「乱暴に履いちゃダメだよ、伸びちゃうからね!」
昂った感情のまま乱暴に履こうとしたら、美咲からツッコミが入った。
「腰まで上げたら、前後がちゃんとフィットしているか確認しなさい」
僕は前後の布地が大事な部分に過不足なく収まっているのを確認した。股間やお尻の布地が少ないせいか、スース―して心許ない。ただ、これで下はOKみたいなので、今度はブラジャーを手に取った。
「えっと……。こうして……。あれ?」
僕はブラジャーを着けて後ろのホックで止めようとしたが、何度やってもうまくとめられなかった。僕は何回もチャレンジしたが、時間が無駄に過ぎていくだけだった。
「ほら、やっぱり付けられないじゃない」
「そ、そんなこと言っても、これ無理だよぉ」
僕は上手く付けられない状況と彼女の追い立てるような言葉の板挟みになって、目に涙が浮かんできた。
「別に後ろでとめなくてもいいわよ。前でとめてから後ろに回したり、最初にとめてから上や下から付ける人もいるわ」
「そ、それは先に言ってよぉ」
これまでの努力を嘲笑うかのようなアドバイスに涙がこぼれる。
「泣かないの。私は葵がちゃんと着けられるか見てただけなんだから」
そう言って、半屈みになって僕の前髪をかきあげると、彼女がまるで本物のお姉さんになったような気分になってしまう。
「ありがとうぅ。美咲お姉ちゃん……」
思わず僕の口から『美咲お姉ちゃん』と自然に言葉が漏れてしまい、そのことを認識して羞恥心をくすぐった。
「さ、あとはいつも通りだから着ちゃいなさい」
「はぁい」
そう言って、僕はワンピースを取ろうとして、部屋にある姿見に映った自分に目を奪われてしまう。その姿は幼いながらも可愛い顔と少し煽情的な下着姿のギャップに見惚れる男の僕と、そのことを恥ずかしがる女の僕が同時に存在しているように感じられた。
その時、感情の昂りも手伝ってか激しい尿意が僕を襲ってきた。僕は服を着るまでと我慢をすることにしていたが、反射的にモジモジしてしまう。その姿が鏡を通して僕の目に映り、その煽情的な動きがさらに僕の感情を昂らせ、限界までの時間を容赦なく縮めていく。
「もしかして、おトイレに行きたいの?」
「そ、そうだけど……。服着てから行くよ」
「いや、今すぐ行った方が良いわ。服着終わったら間に合わなくなるわよ。片付けが大変だから、ここでお漏らしして欲しくないんだけど」
「……すぐに行く」
そう言って僕はトイレへと向かった。
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