第11話 襲撃者と秘石
観た映画を酷評しまくった僕たちは、それぞれの帰途についた。
「そう言えば、最近異能者同士の抗争が多いみたい。葵も気を付けなよ」
美咲は別れ際に唐突に言った。
「いやいや、僕は魔法少女にはなったけど、異能者じゃないからね」
「でも先日の事件の噂、結構広まってるよ。葵のことも広まっているから、異能者だと思われているかも。帰り道は気を付けた方がいいよ」
僕は、その言葉に違和感を感じた。
「ちょっと、何で事件の時の僕の話が広まってるの? あの場にはアイツと水樹さんと僕しかいなかったはずなんだけど……」
「うーん、良くは分からないんだけど……。その時の動画が何故か撮影されていて、それが広まっているみたいなんだよね」
美咲に教えてもらって動画をスマホで開いた。その動画には、僕とアイツと水樹さんが映っていて、変身こそしていなかったものの僕は女の子になっていた。もちろん服は脱げ落ちていて全裸の状態だったため、それに関してのコメントがたくさん付いている。アイツと水樹さんが迫るところで変身した僕が男と戦って退けるところまでバッチリと映されていた。
「これ、誰が撮ったんだろ。この場に他にも人がいたってことかな?」
「うーん、カメラの位置から考えて、誰かいるんだと思うけどね」
そして、僕がアイツを追い払ったところで動画が終わる。
「ま、そういう訳だから、帰り道はくれぐれも気を付けてね。私から言えることは、たとえピンチになってもあきらめないで良く観察するようにってことね」
美咲は意味不明な言葉を残して、ホームへと降りていってしまった。
茫然と彼女を見送って、僕も別のホームへと降りて電車に乗って家へと帰る。最寄駅からの帰り道、僕は疲れもあって気が急いていたのでショートカットのために公園を横切ろうとした。
「おい、お前がアオイだな?」
公園に入ってすぐのところで呼び止められる。振り向くとガラの悪い2人の男が立っていた。
「俺は川辺っていうもんだ。お前に恨みはないが、秘石のために死んでもらうぜ!」
「秘石? 何の話?」
「おっと、惚けても無駄だぜ。楠木の野郎を追い込むようなヤツなら持っているはずだからな!」
「いや、持っていないんですけど……」
「惚ける気かよ! いいぜ、どっちみち殺すのは変わらねぇ!」
そう言って川辺が飛びかかってきた瞬間、彼らの動きが止まる。そして僕の目の前にキノッピーが浮かんでいた。
「葵、今のうちに変身するんだキノ!」
「う、うん。ルナティックフォーム・オン!」
僕の姿が魔法少女形態となり、再び時間が動き出す。変身したことで身体能力の上がった僕は川辺の攻撃を難なくかわした。
「私の名は魔法少女アオイ! 魔王に代わってあなたを成敗します!」
「ちっ、すばしっこいヤツめ。お前の腹にきついのをお見舞いしてやるぜ!」
そう言って、川辺は虚空に拳を振り抜いた。
「おごぉ!」
川辺の拳に合わせるように重い衝撃を受けてお腹を押さえてうずくまる。
「一体何が……」
「ふはは、これが俺様の異能『
今度は川辺の拳に合わせて、僕の右頬に重い衝撃が走り、そのまま吹き飛ばされた。右手に持ったオオヌサで彼の攻撃を受け止めようとしたが、不可視の衝撃はそれにかすりもしなかった。
「こんな異能があるなんて……勝てないよ……」
「おらっ、次は肩を壊してやるぜ!」
「うわぁぁぁ!」
川辺の連続攻撃によって、僕の左右の方に重い衝撃と鈍い痛みが走る。僕は突然の痛みに思わずオオヌサを落としてしまった。
「くくく、武器がなくなったら、もうどうしようもねえよな?! おらっ、次は鳩尾だぜ!」
「ぐふぉぉぉ!」
激しい衝撃が鳩尾に突き刺さる。心臓が止まったんじゃないかと思うくらいの苦痛に再びお腹を抱えてうずくまる。
「おいおい、休んでんじゃねえよ! 次は右足と左足だ!」
「あうぅぅぅぅ!」
川辺の蹴りによって、僕は両足に重い衝撃を受けて地面に倒され立ち上がれなくなる。しかし、変身しているお陰か致命傷には至っていない。しかし、手も足も出ないとはまさにこのことであった。
「さあて、顔もぐちゃぐちゃにしてえところだが……。てめえが死んでから楽しめるように残してやるぜ!」
「ぐっ……」
自分の死体を慰みものにすると宣言する川辺の酷薄さに怖気を感じる。しかし、僕は別れ際に美咲の言っていた言葉を思い出す。
「観察……」
これまでのことを思い返して、僕は防御も回避もできない彼の攻撃が必ず攻撃モーションを伴っていることに気付いた。
「もしかしたら、攻撃そのものを潰せば……」
可能性が見えたことで僕の闘志が再燃する。回復しきっていない手足に鞭打って僕は立ち上がって川辺を睨みつけた。
「ふん、まだ諦めてねえって目をしてやがるな。だがよ、次は心臓をぶち抜いてやる。これでお終いだ――「土行――大地鳴動!」――おぉっ?!」
再び拳を振るう川辺の動きに合わせて周囲に大地震を起こす魔法を展開する。地震によって川辺はバランスを崩して転倒してしまった。そして宙を泳ぐ拳に合わせるかのように僕の胸のあたりに撫でるような感触があった。
「これが弱点……」
「ふん、だが幸運がそんなに続くと思うなよ! 今度はドタマぶち抜いてやるぁ――うわぁ!」
川辺が再び拳を振るうが、先ほど拾ったオオヌサを振ると紙垂が伸びて川辺の足に纏わりつき再び転倒させた。今度は額のあたりに撫でるような感触が走る。
「もしかして、この異能は単なる必中の能力なんじゃ?」
「……?!」
僕のつぶやきに川辺は明らかに動揺する。
「ばれちゃあしょうがねえ。お前はここで死んでもらう!」
「いや、さっきから殺す気満々ですよね?」
「うるせえ! 俺の優しさを無下にした代償は大きいからな!」
川辺の戦意、もとい殺意が急激に上がった。
しかし、異能のネタがバレてしまった以上、いくら殺意が高くても脅威は感じられなかった。
「やれやれ、おとなしく帰ってくれれば、命までは取りませんよ」
「そんなの信用できるかよ! ぜってー殺す!」
「分かりました。恨まないでくださいね。火行秘奥義――天狐灼熱劫火!」
僕の周りに9つの狐火が現れ、渦を巻いて1つの劫火となり川辺を呑み込んだ。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
断末魔の悲鳴を残して、彼の身体は一瞬で塵と化した。
「なかなか使いこなせるようになったではないかキノ! さすがだキノ!」
僕の魔法を見たキノッピーが興奮気味に話しかけてきた。
そもそも、この力ってキノッピーから貰ったものなのだが……。
「ひぃぃぃ。うわぁぁぁ、人殺しぃぃぃ!」
その有様を見た川辺の手下が叫び声を上げて、走り去っていった。僕からしてみれば単なる正当防衛なわけで非難されるいわれはないのだが、そいつには関係ない話なのだろう。そもそも異能者同士の抗争に関して言えば、先に手を出した方だけが処罰の対象となる。なので、彼が警察に駆け込んだところで無駄なことではあるが……。
「まぁ、鬱陶しいようなら始末してしまえばいいか……」
そう言って、僕は変身を解くと家への道を急いだ。
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