第2話・普通の日常から非日常へ

 カードゲームで世界最強になっても現実では特に扱いは変わらない。

 狭いボロアパートに飾ってある、数々のトロフィーに金色の盾、当時の栄光を思い出して夢に浸っていたが……。


「カードゲームで優勝しても現実は何も変わらないよな」


 フラストレーションがフツフツと溜まりに溜まっていたが、訳あってあるカードゲームが大流行している近未来世界に若者へ転生。

 晴れてブラック企業とおさらばした俺・青風あおかぜ斗真とうまはルンルンで半透明のモニターが空中に浮かビル街を歩き、偶々見つけた大型のカードショップにきたのはよかったが……。


「ヒヤッハー!! お前のレアカードをよこしやがれ!」

「なんでカードショップで世紀末スタイルのやつがいるんだよ!?」

「お前、このスタイルに文句があるのか!」

「当たり前だろ」


 ニワトリみたいな髪型に肩パットのガタイがいい青年。

 明らかに場違いだし、前世のカードショップで見たことないぞ。

 突っ込みどころが多い中、ショップ内にいるお客さんは興味深そうにコチラを見てきた。


「なんか黒髪ウルフカットが剛力のバルドに目をつけられたぞ」

「御愁傷様としか言いようがないわね」

「可哀想だがオレ達にはどうしようもない」


 これって警察を呼んだ方がいいのか?

 このままだと嫌な予感しかしないので、Fフォンと呼ばれるスマホ型の携帯器具を取り出す。

 すると相手のヒヤッハー男はニヤッと笑い、革ジャンから黒色のFフォンを手にした。


「やっと勝負する気になったのか」

「勝負ってカードゲームの"魂の幻想ソウル・ファンタジア"でいいんだよな」

「当たり前だろうが!」


 どこぞの大人気カードゲーム漫画にありそうな超展開。

 漫画やアニメで見るならともかく、現実で経験するなんて思わなかったよ。

 というか、警察に通報するつもりが勝負する話になってない?


「黒髪が"剛力のバルト"に勝負を挑んだぞ」

「ヒョロイのに勇気があるわね」

「こりゃ面白いことになりそうだぜ」


 なんでそうなる!

 ブラック企業勤務のカードゲーマーだった俺が、魂の幻想ソウル・ファンタジアの勝負結果で運命が決まる世界とか突っ込みどころが多すぎるだろ。

 ただ今の状況的に逃げられそうにないので思わずため息を吐く。


「覚悟はいいか?」

「お、おう」

「「エレキチェンジ、ソウルGO!!」」


 少し戸惑いながら、アニメキャラが勝負する時に発言するセリフを口にする。

 前世なら従来通りのデーブルの上で向かい合わせて対決するはずが……。

 Fフォンが光り輝き、俺の体は現実世界から勝負フィールドの電脳世界に飛ばされていく。


青風斗真あおかぜとうま様によるリンク確認。プレイヤーネーム・シアンとしてファンサスタイルへ換装します』


 女性っぽい機械音と共にパーカーに黒ズボンだった俺の姿が青髪に白い軍服姿に変化。

 そのまま野球のドームみたいな空間に到着し、周りをチラッと見ると企業の広告が写っていた。

 

「こんな経験が出来るとは」


 アニメ世界が現実に……。

 二十代中盤だった俺が高校生になるだけでも嬉しいのに、変身バンクを体験する方になるとは。

 ワクワクとドキドキでテンションが上がっていると、対戦相手のヒャッハー男がモニターごしに睨みつけてきた。


「ランク1の新人かよ。こんなのでランク4の俺様に勝負するかよ」

「勝負を挑んできたのはソチラだろ」

「どっちでもいいだろうが!」


 よくないわ!

 明らかに関わってはいけないヒャッハー男にわざわざ勝負を仕掛けるんだよ。

 突っ込みどころが多い中、プレイヤーゾーンにある空中テーブルにデッキをセットする。


「それでルールはスタンダードでいいのか?」

「もちろんだ!」


 スタンダードはシンプルなルールで勝利条件もよくあるライフゼロ・デッキ切れ・特殊勝利。

 大体のカードゲームと変わらないルールなので、デッキが自動でシャッフルされる所を見ながらヒャッハーに突っ込む。


「改めて、お前の狙いはこのレアカードでいいんだよな」

「もちろんだろ」

「だよな……」


 コイツと勝負する前にパックで当てたレアカード。

 前世では千円くらいのSレアのカードで価値がないわけではないが、強引に奪う程ではないはず。

 なのに白昼堂々の中で奪おうとするのは価値観の違いかな。


「御託はいい! そろそろ勝負するぞ」

「……ああ」

「「スタートライン!!」


『プレイヤーネーム・シアン、ライフ10VSプレイヤーネーム・バルト、ライフ10』


 互いに掛け声をした後。

 カードの束であるデッキから6枚をドロー〈デッキからカードを引く事〉してゲームスタート。

 先行はコチラからみたいで、デッキから引いた手札を見ながら動き始める。


「初心者でも先行はドロー出来ないのは知っているよな」

「それくらいはな」


 前世では10年以上は好んでやってきたカードゲームだからな。

 空中に浮かぶモニターから煽るコメントが届くが、スルーしながら使うカードを選ぶ。


「スタートタイム、メインタイム。まずは"風切りゴブリン"を"召喚サモン"して"効果ソウル"を発動。手札のギルド・ウィンドのカードを捨ててデッキから2枚ドローする」

「いきなり手札交換かよ! てか、トリッキーなカードが多いギルド・ウィンド使いかよ!」

「なんか問題でもあるのか?」

「いや、面白いと思っただけだ!」

 

 手札があるだけチャンスがある。

 カードゲームあるあるだが、緑色の肌にナイフを持つ小人がフィールドに現れた。

 ホログラムなのはわかるが、画面で見るのと現実でモンスターを見るのは迫力が違うな。


「続いて"風来サムライ"と"風人形"をサモン!」

「これでサモンを使い切ったな」

「そうだけど風人形のソウルを発動。墓地に存在する2体目の"風来サムライ"を"表現クール"」

「少しは歯応えがありそうでよかったぜ」


 風来サムライは緑色の着物に江戸時代の刀を持つ人間型のユニット。

 対する風人形は理科室の骨格標本の骨組みを緑色にした感じで安っぽく感じる。


「ただギルド・ファイアを扱うオレの敵じゃない!」

「見た目通り攻撃型のデッキを使うのかよ」

「もちろんだ!


 まさに見た目通りだな。

 コチラのフィールドにはユニットが4体揃ったが、前世のスタートデッキだからここまでが限界だな。

 

「先行はバトルタイムがないからら"地雷マイン"カードをセットしてエンドタイム」

「アッサリとした立ち上がりだな」

「序盤から飛ばして息切れしたくないから」


 半分は本当だが残り半分は嘘。

 とりあえず相手の出方を見たいのでエンドタイムに入ると、ヒヤッハー男がニヤッと笑った。


「雑魚ユニットでオレの攻撃を耐えられると思うなよ!」

「そのフラグは折らせてもらうぞ」

「やってみろ! ターン2、ドロータイム、スタートタイム、メインタイム!」

 

 勢いよくデッキからカードを引いたヒャッハー男。

 ギルド・ファイアは攻撃的なデッキでユニットの攻撃力を上げる効果を持つカードが多い。

 なので手札の防御カードをチラッと見ていると、向こうがニヤッと笑みを浮かべた。


「何があるかわからないが一気に攻めるぜ!」

「お手なみ拝見だな」

「ハッ、その余裕を潰してやるぜ! まずはファイアマンをサモンしてソウル発動! 手札を2枚捨ててデッキからファイアマン2体をクールサモン」

「ノーマルサモン1回で3体のユニットを揃えたか」

 

 フィールドの制限は7枚+地雷カード1枚。

 俗に言う通常の召喚権〈サモン〉が三回までなので、ユニットが多く出る方が基本的に強い。


「まだまだいくぜ! 手札から"レッドリザード"をサモンしてソウルを発動! お前の"風来サムライ"を破壊する!」

 

 相手のフィールドには赤い皮を持つマネキンの姿をしているファイアマンが3体。

 レッドリザードのソウル発動条件のギルド・ファイアのカードが2枚以上あるのでダイヤ2以下のカード1枚を破壊できる。


「くらいやがれ!」


 今の状況でブロッカーが減るのは痛いが……。

 三メートル肌のトカゲ型のユニットであるファイアリザードが口から大きな炎の玉を吐き出す。

 その一撃はフィールドで刀を構えている風来サムライに向かって着弾して爆発するのだった。


「これで一体は倒せたぜ」

「……それはどうかな?」

「なっ!?」


 言いたいセリフが言えた!

 自分の中で確かな満足を感じながら風来サムライの無事を確認するのだった。

 

《カード紹介》

・攻撃、ユニットとバトル(攻撃側のステータス)

・防御、ユニットとバトル(防御側のステータス)

・火力、相手にダメージを与えるステータス

〈ギルド紹介〉

・ギルド・ウィンド。トリッキーなカードやコンボが得意なタイプが多い。

・ギルド・ファイア。攻撃・火力が高めでパワーで押し切るタイプが多い。



 

 



 

 

 


 

 

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