第9話・勝った時と負けた時の差が激しいのはあるあるだな

〈トウマ視点〉


 大型ショッピングモール内にあるカフェ。

 そこで不貞腐れたカレンは悔しそうに頬を膨らませていた。

 うん、どうやって話そう。


「しっかしあの状況でよく逆転できたな」

「アナタがくれたカードのおかげよ」

「そりゃよかった……。なんで膨れているんだ?」

「別に二回戦で負けた事を気にしてないだけよ」

「お、おおう」


 絶対気にしているな。

 ショップ大会の1回戦は綺麗な逆転勝ちしたが、2回戦のギルド・ウォーターの使い手に翻弄されたカレン。

 そのせいでコイツはカフェ内で不貞腐れながら抹茶ラテをのんでいるんだよな。


「ギルド・ウォーターの手札戻しに妨害とか反則よ!」

「それを言うなら攻撃と火力をあげられるファイアも言えないだろ」

「アタシはいいの!」

「あ、ああ」


 おそらくエースである真紅の騎士・スカーレットが何回も手札戻しにされたのが悔しいんだろうな。

 あいつのサモンコストでライフ2を使うデメリットのせいで、ある意味ハメられた感じになってたし。


「それに参加費が1500円の割には記念パックがひとつとか割に合わないわ」

「ま、まあ、ショップ大会の優勝景品がボックス4箱だから採算を取るためだろ」

「だから納得できないのよ!」


 あのー、俺に当たるのはやめて欲しいんだけど?

 というか流石に愚痴は聞き飽きたので、ここら辺で話題の転換をしていく。


「カレンが納得できないのは置いといて本題に入ってもいいか?」

「もう少し愚痴を聞いて欲しいけど仕方ないわね」

「助かる」


 気になる点が多かったからよかった。

 自分の中で気になる点とかがあったので、カバンからFフォンの電源を付けてテーブルに置く。


「何か気になることでもあるの?」

「ああ、電子フィールドでグレイスをして買った時に入ってくるスパチャってファイトマネーみたいな感じだよな」

「アタシはその感覚だけど?」


 やっぱりそうだよな。

 そこらへんの確認が出来たから、今度はもう少し深い話題に持っていくか。


「スパチャは生放送ライブを見ているリスナーからの課金コメントで入るのはわかるんだけど、ランク的に俺の時だけ他よりも多くない?」

「アナタってスパチャはいくら、え? なんで6300円も入っているの!?」

「あまり大声を出すなよ」


 驚くのはわかるけど……。

 ランク1や2の対戦で手に入るスパチャは良くて2000円くらい。

 なのに俺の時だけスパチャが3倍以上になっていたので、調べてみたのだが。


「課金コメントを見た感じ天弦竜スカイライン・エクシードが出てきたタイミングで跳ね上がったんだよな」

「あー、そりゃ跳ね上がるわよ」

「それってコイツが特別なカードだからか?」

「逆に別の理由があると思っているの?」


 コメント的にその節は感じていたが。

 嫌味+自慢になる感じて言いにくいので、言葉を選びながら話していく。

 ……だんだんカレンの表情も険しくなってきたような?

 

「EXレアの価値はわかっていたはずなのに、それ以上だったとは」

「オンリーワンのカードだから当たり前でしょ」

「それって同名のEXレアが存在しなかってことだよな」

「まとめるとそうなるわ」


 やべぇ。

 そうなるとカードゲーム漫画やアニメ特有のリアルファイトで強奪される可能性もあるんだよな。

 てか、もしやボディガードを雇うレベルなのでは?


「ははっ、とんでもないカードだな」

「確かにそうだけど持ち手以外は使えない特別なカードよ」

「お、おう」


 そ、それはよかった。

 天弦竜スカイライン・エクシードが他の誰かに使われない。

 その事をしれただけでも大きな収穫だな。


「ホッとしているところ悪いけど飲み物の追加を頼むわね」

「わかった」


 不服そうに顔をプイッと横に振ったカレン。

 その表情が気になりながら、店員さんが来るまで無言の空気が続くのだった。

 

 ーー


 日も落ちてきたタイミングでカレンと別れた後。

 自宅のマンションに帰るために住宅街の道を歩いていると、ふと動物の遠吠えが周りに響いた。


「フフフッ、新しい獲物を見つけたわ」

「……へ?」


 あのー、なんか紫色のオーラを纏った女性が現れたんだけど?

 アニメや漫画とかで見た事がある雰囲気に固まっていると、相手が黒いFフォンを取り出し笑う。


「さあ踊ってもらうわよ」

「やっぱりこのパターンか!」


 次に目を開けると見覚えのあるドーム。

 周りには黒い煙が漂っており、不気味さと相まって少し怖い。

 まあでも、この展開も面白そうなのでテンションを上げていく。


「これってどういう展開なんだ?」

「はっ、素人っぽいお前に教えてやる」

「どうも」

「……なんで余裕があるんだ?」

「さあな」


 アニメでみていた展開を楽しめるからだろ。

 ただそれを言うと向こうが呆れそうだから、適当に受け流しながら耳を傾ける。

 

「これから行われるのはアビス・グレイズ。呪いのカードを持っている私がお前に勝てばその魂を貰い受ける!」

「じゃあ俺が勝ったらどうなるんだ?」

「それを答えると思うか?」

「あ、はい」


 説明がアッサリすぎない?

 そう思いながら自分の姿がファンサスタイルになっている事に気づく。

 うん、コッチの白い軍服はあまり汚したくないな。


「御託はこれくらいにしてグレイズを始めるぞ!」

「了解」

「……まあいい。すぐにアビス・グレイスの怖さを知る羽目になる」


 はいはい。

 なんかカマセっぽい言い方をされても響かないんだけど?

 そう思いながらデッキをセットした後。


「さあ、アビス・グレイズ開始!」

「おう! 思いっきり楽しんでやる」

「アナタね……」


 温度差が激しい気もするが、初めてのアビス・グレイズ。

 アニメでは魂を奪われる危ないグレイズだが、元世界最強を舐めるなよ。

 そう思いながら相手を倒すために引いた手札で戦術を組み上げていくのだった。

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