第5話 ネクロマンサーに話しかけただけでリバースされたZO(泣

「はあ……」


 教室の隅で、ため息をついている女子生徒がいた。


 屋内だと言うのに、魔女ばりにとんがり帽子を被っている。トレードマークだと言わんばかりだ。

 あれか? ツッパリのリーゼントみたいなものかな?(死語


 それの、異世界バージョンなのかもしれない(ホント? 

 

「どうしたんだ?」


 オレが声を掛けると、少女はこちらを向いた。


「あ、う、ジュライ、王子」


 なんだろう? 少女はやけに、挙動不審だ。


「入学したばかりだと言うのに、やたらブルーじゃないか。ブルーなのは下着だけにしてほしいものだね(コラ」


「う、うぷぅ!!」


 突然、女子生徒はトイレに駆け込んでしまう。


 なんだってんだYO。


「す、すいませんっス。声の出し方を忘れたっス」


 頭をかきながら、少女はとんがり帽子を取る。

 今どき、牛乳瓶底メガネとか。属性盛り込み過ぎにもほどがあるだろ。


「ボクは、【フゥヤスノスキ・ミニミオン】というっス。フゥヤと呼んでくれればいいっスよ」


「あなたは、ネクロマンサーですよね?」


 そうチチェロが尋ねると、フゥヤが「そうっス」と答えた。


 ネクロマンサーは、孤立しやすい。


 魔法も剣術もミニオン頼みになり、自己の成長に繋がらなくなるからだ。

 体育の授業で「二人組を作って~」ってときは、超絶に楽だけど。


 それだけは、うらやましく思う。


 オレなんて学生時代は、先生にすら避けられていたもんなぁ。


「キミの、出身校は?」

 

「魔王の領土からほど近い、インキャーパレスっスよ」

 

「ふむ。かなりの、激戦区だな。魔王の支配する土地に近いと、結構大変だったのでは?」


「そうでもないっスよ。強い勇者様が、討伐に向かってくださっているので」


 フゥヤが言うと、チチェロが少しさみしげな顔をした。


「どうした、チチェロ?」


「いえ、なんでも」


 チチェロは取って付けたかのように、平静を取り繕う。


「ただ、魔王の領地からすぐのところに居城を構えているっスから、あまりいい顔をされないっス。スパイじゃないのかって、疑われてて」


「バカバカしいな!」


 オレはあえて、大声で叫んだ。


 クラスメイトたちが、何事かとこちらに顔を向けてくる。


「スパイ? 仮にスパイが忍び込んでいたとしても、魔法科学校がそんな些事に怯えていてどうする?」


 スパイを探し出せなかったら、自分たちはそれだけの人物だったということ。

 堂々としているがいい!

 もしスパイを見つけたら、魔法の一つや二つを眼の前でぶつけてやればいいのだ。


「ここはスパイの一匹や二匹に占領されてぶっ壊れるような、やわな学園ではない。やれるもんなら、やってみろというのだ!」


 みんなあっけにとられて、オレの話なんて聞こうともしない。

 雑談に戻っている。


 チチェロ一人だけが、パチパチと手を叩いてくれた。

 

「というわけだ。キミがスパイだろうと、どうってことはないって証明されたぜ」


「うっ……ス」


 フゥヤが、ペコリと頭を下げる。


「ネクロマンサーか。ぜひとも味方にほしい。もし相手にされていないのなら、オレたちの友だちになってくれないか?」


「いいんっスか? 変なウワサが立つっスよ」


「構うもんか。実はこのチチェロ、友だちが少なくてな。平民だから、誰も相手にしてくれん。この間も、モブの縦ロールにちょっかいをかけられた。返り討ちにしてやったが」


「おウワサはかねがね。『黙っていればイケメン王子』と、ジュライ様は話題になっているっスよ」

 

 そんな話になっているのか。


「模擬戦の授業が、始まるっス。急いで、着替えるっスよ」


 おお、そうだったな。

 

 オレの対戦相手は、オレが呪文を詠唱している最中に吐き出してしまった。

 結果、オレの不戦勝となる。

 まるで、オレの力が発揮できんではないか。

 オレがどれくらい強いのか、いつになったらわかるんだろ?


「続きまして、フゥヤさんと、チチェロさんです」


 ブルマ姿の二人が、向かい合う。


 さっそく、フゥヤがミニオンを召喚した。剣を持つスケルトンと、弓を持つスケルトンの合計二体である。


 対するチチェロの武器は、木でできた模造剣一本だけ。

 

 テニスのスイングのように、チチェロが剣型と打ち合う。

 相手は金属の剣を持っているのに、器用に武器を受け流していた。


「さすが未来のヨメ! チチェロ、ガンバ!」


「ううっぷ!」


 急に、チチェロの動きが鈍る。


 チャンスとばかりに、スケルトンの一体が後方で弓を構えた。


「二人同時プレイなんて、ぜいたくすぎるぞ! こういうのは、向かい合って一対一でいちゃつきあうのがいいんじゃないかと、おじさんは思うんDA!」



「ぼええええええええ!」



 オレが言葉を発すると、激しい嘔吐とともにスケルトンが消え去る。


 勝負アリかと思ったが、チチェロもリバースしていた。


 この試合は、引き分けとなる。


 おしい! あのまま押し切れていたら、チチェロの勝ちだったな!


 でも試合後、二人は仲良く語り合っている。お互いの反省点を話し合っているみたいだ。


 キラキラ虹の後は、百合の花が咲くってね!


 

「王子、ありがとうございます」


 チチェロが、オレにお礼を言ってくる。


「ん? オレは、なにもしていないぞ」


「でも、未来のヨメって言ってくれました」



 そんなんでいいのか。


「お安い御用さ。それでいいなら、毎日伝えてあげるYO。耳元で、NE」


「ごっふ……」


 また、チチェロが口を抑えてトイレに駆け込んだ。


 オレって、やっぱりチチェロに嫌われているのだろうか?


 ぴえん。

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