第11話 一人で冒険に行こうとする許嫁と、一緒に旅をするZO★

 チチェロの私室へ行くと、チチェロが旅支度をしていた。

 オールシーズン使えそうな、外套を羽織っている。下は白いシャツと、ショートパンツタイプのサロペットジーンズ。腰には魔法装飾の施された剣を携え、足にはナイフをベルトでくくりつけている。

 リュックには、数日分の食料まで詰めていた。

 本格的に、出ていくつもりだ。


 同居人のフゥヤは、もういない。

 卒業とともに荷造りを済ませ、出ていった。国に帰るという。


「どこへ行く?」

 

 オレは、チチェロに声をかけた。


「父を探しに行きます」


「待て。魔王の軍勢相手に、一人では危険だ」


「一人ではありません。姫騎士クッコ様の調査隊に同行するのです」


 聞いた話によると、チチェロの父親は伝説の勇者だったらしい。連絡すらよこさない父を、チチェロは探しに行きたいのだという。


「オレが許可を出していないのに、ゆくのか?」

 

「国王様からは、おいとまの許可をいただいております。この件に関しては、ジュライ王子のお手間を取らせません」


「チチェロ!」


「お世話になりました」


 オレは、去ろうとするチチェロの腕を掴む。


「どうしても、行くんだな?」


「はい。まだ止めなさりますか?」


「いや。オレも一緒に行く」


「ジュライ様!」


「夫であるオレが同行するなら、ムチャはするまい」


「いけません! あなたは、国王様をサポートすべき存在。わたしは、すぐに戻ってまいります。この一件を終えましたら、処罰なり、許嫁なり、なんなりとお申し付けください。ただ、このワガママだけは聞いていただきたく……」


「そう言って、魔王討伐も行うのだろう?」


 チチェロは、沈黙する。それが、答えか。


「オレの許可なく、死ぬことは許さぬ」


「使用人ごときに、そこまで思い入れをなされては」


「キミは、ただの使用人ではない。オレの妻になる存在なのだ。命を粗末にしてはならぬ」


 オレはチチェロを連れて、王の間に向かう。


「父上、話がある」


「なんだよ?」


「オレは、王室の称号を放棄する」


「マジ?」


「ただの冒険者となって、チチェロの旅に同行したい」


 父親の顔は、驚きが半分と、予想通りといった様子が半分あった。


「それで、王子の称号が邪魔だと?」


「そうだ。オレが王子でなければ、魔王討伐だろうとなんだろうと、出陣して問題はあるまい。ましてオレは第九王子。死んでも国にダメージは入らぬ」


「いやあ。ぶっちゃけ、お前みたいな規格外の術師を野に放つ方が、国家としてはヤバイんだけどな」


「今は、そんなことを言っている場合ではない」

 

「姫騎士のクッコ殿まで、出陣なさるのだ。お前が焦って、行くことはあるまいて」

 

「魔物の軍勢との戦いは激化していると聞く。王族の我々が、戦わずしてどうする?」


「わかったよ」


 父王が、配下を呼びつけた。オレのために、装備品一式を用意させる。オレが出ていくと、見越していたのだろう。


 持たされた武器は、細剣である。魔法銀でできており、装飾も複雑である。

 

「我が王族が戦争になった場合のために用意された、サーベルだ。魔法を撃ち出す杖としても、使用可能である」

 

 服には、王族の腕章まで。といっても、「自分は王族だ」といった偉そうな出で立ちではない。 


「これでは、いかにも王族ではないか」


「称号剥奪までは、する必要はなかろう。こちらからも、討伐隊を出した体にしておく」


 王族から、数名の兵士を連れて行っていいとも言われた。

 

「父上の守りも、必要だ。兵隊をゾロゾロと、連れていくわけにはいかんぞ」


「心配するな。とっておきのいい人材を、用意してある」


 外に出てみろというので、王城から出てみた。

 

「うっス」


「フゥヤ!」

 

 出ていったと思われたフゥヤが、スケルトンを引き連れて待機しているではないか。


「ミケルセン王から伝達があったときは、なんか粗相をしたのかって思ったっスよぉ」


「なにかしらの因果か、運命を感じるな。しかし、いいのか? 魔王討伐は、大変だぞ」


「どのみち、行かないといけないんスよ。ウチは魔王の領土とご近所なので」


 たしかにな。


 オレたちは、クッコ姫のいる騎士詰め所へ。

 

「お、王子も同行してくださるのか。心強いな」


 クッコ姫は、兵士たちに稽古をつけていた。

 なぜ王室にいらっしゃらないのかと思ったが、身体が鈍るのを嫌ったようだ。


 騎士団は、男女含めて数名である。少数精鋭という感じか。


「たいした手伝いはできんが、よろしく頼む」


「ご謙遜を。王子が一番、頼りになるんだが?」


「そうですかな? クッコパイセンに敵う騎士は、男でも見当たらないと聞きますぞ」


「それは、女性を褒める言葉ではありませんよ。ワハハ!」


 クッコ姫が、腰に手を当てる。


 隊列はクッコ姫とオレが先頭だが、戦いになったらオレは後衛に回ってサポート役だろうな。フィジカルは明らかに、チチェロの方が強いから。

  

 それにしても、今まで出会った人々と、一同に介するとは。

 しかも、目的は同じ。

  

 これはデスティニーなのではないか?


「チチェロ、人を引き寄せる力も、キミに備わったパウワなのかもしれないZO☆」



「う、おおえええええええ!」


 虹色のキラキラを、三人して吐き出す。


 出発の門出に虹が咲くとは、幸先がいいな。

 

(第二章 完)

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