第10話 卒業したZO

 無事にオレたちは、魔法科学校を卒業する。

 

「魔法科学校の授業は三年かかる」と言われるが、オレたちはほんの半年で済んだ。


 半年に一度行われる「早期卒業試験」の条件を、なぜかオレはクリアしていたらしい。


 そんでもって試験をやってみたら、拍子抜けするような魔法テストである。

 オリジナルの魔法を、発動させるだけ。

 オレは呪文を唱えていただけなのに、それだけで合格してしまった。

 なんじゃそら? と。

 

 

 先だって卒業した、クッコ姫の口添えもあったらしい。あの人のポテンシャルをして、オレはバケモノと判断されたようだ。


 まあ、オレは転生者なので、どうせチートで卒業できたのだろう。

 どういったチートなのかは、オレにも自覚がないんだが。


「おめでとうっス。すごいっスね」


 フゥヤが、花束を持ってオレに差し出す。

 

「何を言う? キミの方がすばらしい成績ではないか」


 なんと、フゥヤはオレたちと同時に卒業する。

 早期卒業試験を、フゥヤはあっさりパスしてしまったのだ。


「キミのオリジナル魔法とは?」


「スケルトン同士を合体させて、大きなゴーレムにしたっス。乗り込むこともできるっスよ」


 実際に、フゥヤは配下ミニオンのゴーレムたちを集結させ、合体させた。

 おお、このモーションは、まさしく合体ロボじゃんか。骨の集合体で、こんな芸当ができるとは。フゥヤ、天才過ぎる。


「実用性で、合格したっス」


「うむ。すばらしいな」


 同じように、学校側はチチェロにもただならぬ気配を感じているらしい。


 先生にも呼び出されたし。


 とはいえ、心当たりはある。


 なんたって、オレの嫁だしな!





 チチェロは、校長室に呼び出された。

 

「失礼します。チチェロ、参りました」


 なぜか、姫騎士クッコ・ローゼンハイムまで同席しているではないか。


「チチェロさ~ん。わざわざどうも~」

 

 ヒリング先生が、校長室にいるのはわかる。だが、どうして姫騎士まで。


 数ヶ月前に早期卒業したばかりで、学校に戻ってくるとは。

 自分の事情が、それだけ深刻というわけか。

 

「ご苦労だ。座ってくれないか?」


 クッコ姫から、チチェロは着席を促される。

 

「では、お尋ねします。チチェロさんのお父さんのお名前を、確認させてくださいますか~?」


 ヒリング先生が、チチェロに聞いてくる。

 

「父の名は、ブレイヴァルトです。それが、なにか?」


 クッコ姫が、校長に耳打ちをする。


 姫の話を聞いた瞬間、校長はトンカチのような大判を手に取った。

 なにかの書類に、ハンコをドンと押す。


「おめでとう、チチェロ。卒業だ」


 なにが起きたのか、わからない。


「ジュライ王子が早期卒業するから、学校を出ていけ」と言われるなら、よくわかる。

 あの方の魔力、というか言霊の威力は絶大だ。

 自分より遥かに格上のオークキングさえ、一撃で破壊した。

 ジュライ王子が卒業するのは、時間の問題だっただろう。

 で、自分もお役御免というなら、話は早い。


 しかし、父の名前を教えただけで、卒業させてもらえるなんて。


「あなたのお父様は、魔王討伐に向かった勇者です」


「本当ですか?」


「はい。今でも、魔王の軍勢と戦っていますよ」

 

 肉親が勇者というだけで、卒業できるものなのだろうか?


「あなたの魔力を、テストさせていただきました~。あなたの力や将来性は、クッコ姫さえ上回ると分析できました~」


「まさか。信じられません」


「いえ。あなたの力は実戦でこそ真価を発揮すると、クッコ姫も太鼓判を押しているんですよ~」


 クッコ姫が、そこまで自分を評価してくれているとは。


「しかし、早期卒業試験は」


「私と一戦、交えてみよ」


「え?」


 自分と、クッコが戦えと?


「ご冗談を」


「ジョークで決闘を申し込むほど、ガキではない。外に出ようではないか」


 姫騎士は、本気だ。


 学園の裏にある、草原の広場に立った。


 お互いに木剣を持ち、構える。


「スタ~ト」


 ヒリング先生のユルい合図で、木剣を打ち合う。


 姫騎士を傷つけていいものかと思ったが、手を抜けばかえって無礼に当たる。本気で、挑まねば。


 秘密裏に行われると思っていたのに、野次馬が集まってきた。

 

「キミのお父上の技を、披露して差し上げよう」


 姫騎士が、足を大きく広げる。剣の持ち手側を顔に近づけて、斜めに構えた。


「【アクセル・トラスト】!」


 一瞬、姫騎士が視界から消える。


 違う。下だ。


 アッパー気味の突きトラストが、チチェロのノドに迫る。


 回避が、間に合わない!


 チチェロは、やむを得ず防御する。


「よくぞ、受け止めた! しかし!」


 手に持っている木剣が、砕けた。


 多少の魔法攻撃ならたやすく防御する、頑丈な木剣なのに。


 これが、姫騎士の本気か。


 踏み込んだ草が、竜巻状にちぎれている。

 風の魔法を足に付与して、ダッシュ力を上げたか。


「今一度。くらえ、【アクセル・トラスト】!」


 また、クッコ姫が視界からいなくなる。


 アイテムはない。回避できるか?


「チチェロ! オレのヨメなら姫騎士なんて打倒できるはずだ。キュートな眼差しは、正確に姫を捉えるZO!」


唐突に、ジュライ王子の声援が飛んできた。


「ッブぅ!」


 魔力が胃を駆け巡って、ノドへこみ上げてくる。

 

「うっ……おろろろおろおおろおろろろろろ!」


 クッコ姫の顔面に、盛大に虹色のキラキラを吐き出してしまった。


「うわ!」


 姫がひるむ。

 

 チャンスは、今しかない。しかし武器は……やむを得ぬ。


「【アクセル・トラスト・キック】!」


 手を地面につけて、チチェロは逆立ちになる。

 姫騎士のアゴへ、足刀で蹴り込んだ。


「ぐああああ!」


 えびぞりに、クッコ姫がのけぞる。そのまま地面に倒れ込む。


 勝った。しかし、王子の手助けがなかったら。


「見事だ。さすがにオレのヨメである。姫騎士もナイスファイトだZO」


 ジュライ王子が、大声でチチェロとクッコ姫を称える。

 

 二人して、「おえええええええ」と虹色の魔力を吐き出した。



 こうしてチチェロは、王子とともに、無事に卒業を迎える。


 だが、チチェロの旅はここから。

 父である勇者の、手伝いをするために。

 

 卒業したら、王子の元から去らねばならない。

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