第10話 卒業したZO
無事にオレたちは、魔法科学校を卒業する。
「魔法科学校の授業は三年かかる」と言われるが、オレたちはほんの半年で済んだ。
半年に一度行われる「早期卒業試験」の条件を、なぜかオレはクリアしていたらしい。
そんでもって試験をやってみたら、拍子抜けするような魔法テストである。
オリジナルの魔法を、発動させるだけ。
オレは呪文を唱えていただけなのに、それだけで合格してしまった。
なんじゃそら? と。
先だって卒業した、クッコ姫の口添えもあったらしい。あの人のポテンシャルをして、オレはバケモノと判断されたようだ。
まあ、オレは転生者なので、どうせチートで卒業できたのだろう。
どういったチートなのかは、オレにも自覚がないんだが。
「おめでとうっス。すごいっスね」
フゥヤが、花束を持ってオレに差し出す。
「何を言う? キミの方がすばらしい成績ではないか」
なんと、フゥヤはオレたちと同時に卒業する。
早期卒業試験を、フゥヤはあっさりパスしてしまったのだ。
「キミのオリジナル魔法とは?」
「スケルトン同士を合体させて、大きなゴーレムにしたっス。乗り込むこともできるっスよ」
実際に、フゥヤは
おお、このモーションは、まさしく合体ロボじゃんか。骨の集合体で、こんな芸当ができるとは。フゥヤ、天才過ぎる。
「実用性で、合格したっス」
「うむ。すばらしいな」
同じように、学校側はチチェロにもただならぬ気配を感じているらしい。
先生にも呼び出されたし。
とはいえ、心当たりはある。
なんたって、オレの嫁だしな!
*
チチェロは、校長室に呼び出された。
「失礼します。チチェロ、参りました」
なぜか、姫騎士クッコ・ローゼンハイムまで同席しているではないか。
「チチェロさ~ん。わざわざどうも~」
ヒリング先生が、校長室にいるのはわかる。だが、どうして姫騎士まで。
数ヶ月前に早期卒業したばかりで、学校に戻ってくるとは。
自分の事情が、それだけ深刻というわけか。
「ご苦労だ。座ってくれないか?」
クッコ姫から、チチェロは着席を促される。
「では、お尋ねします。チチェロさんのお父さんのお名前を、確認させてくださいますか~?」
ヒリング先生が、チチェロに聞いてくる。
「父の名は、ブレイヴァルトです。それが、なにか?」
クッコ姫が、校長に耳打ちをする。
姫の話を聞いた瞬間、校長はトンカチのような大判を手に取った。
なにかの書類に、ハンコをドンと押す。
「おめでとう、チチェロ。卒業だ」
なにが起きたのか、わからない。
「ジュライ王子が早期卒業するから、学校を出ていけ」と言われるなら、よくわかる。
あの方の魔力、というか言霊の威力は絶大だ。
自分より遥かに格上のオークキングさえ、一撃で破壊した。
ジュライ王子が卒業するのは、時間の問題だっただろう。
で、自分もお役御免というなら、話は早い。
しかし、父の名前を教えただけで、卒業させてもらえるなんて。
「あなたのお父様は、魔王討伐に向かった勇者です」
「本当ですか?」
「はい。今でも、魔王の軍勢と戦っていますよ」
肉親が勇者というだけで、卒業できるものなのだろうか?
「あなたの魔力を、テストさせていただきました~。あなたの力や将来性は、クッコ姫さえ上回ると分析できました~」
「まさか。信じられません」
「いえ。あなたの力は実戦でこそ真価を発揮すると、クッコ姫も太鼓判を押しているんですよ~」
クッコ姫が、そこまで自分を評価してくれているとは。
「しかし、早期卒業試験は」
「私と一戦、交えてみよ」
「え?」
自分と、クッコが戦えと?
「ご冗談を」
「ジョークで決闘を申し込むほど、ガキではない。外に出ようではないか」
姫騎士は、本気だ。
学園の裏にある、草原の広場に立った。
お互いに木剣を持ち、構える。
「スタ~ト」
ヒリング先生のユルい合図で、木剣を打ち合う。
姫騎士を傷つけていいものかと思ったが、手を抜けばかえって無礼に当たる。本気で、挑まねば。
秘密裏に行われると思っていたのに、野次馬が集まってきた。
「キミのお父上の技を、披露して差し上げよう」
姫騎士が、足を大きく広げる。剣の持ち手側を顔に近づけて、斜めに構えた。
「【アクセル・トラスト】!」
一瞬、姫騎士が視界から消える。
違う。下だ。
アッパー気味の
回避が、間に合わない!
チチェロは、やむを得ず防御する。
「よくぞ、受け止めた! しかし!」
手に持っている木剣が、砕けた。
多少の魔法攻撃ならたやすく防御する、頑丈な木剣なのに。
これが、姫騎士の本気か。
踏み込んだ草が、竜巻状にちぎれている。
風の魔法を足に付与して、ダッシュ力を上げたか。
「今一度。くらえ、【アクセル・トラスト】!」
また、クッコ姫が視界からいなくなる。
アイテムはない。回避できるか?
「チチェロ! オレのヨメなら姫騎士なんて打倒できるはずだ。キュートな眼差しは、正確に姫を捉えるZO!」
唐突に、ジュライ王子の声援が飛んできた。
「ッブぅ!」
魔力が胃を駆け巡って、ノドへこみ上げてくる。
「うっ……おろろろおろおおろおろろろろろ!」
クッコ姫の顔面に、盛大に虹色のキラキラを吐き出してしまった。
「うわ!」
姫がひるむ。
チャンスは、今しかない。しかし武器は……やむを得ぬ。
「【アクセル・トラスト・キック】!」
手を地面につけて、チチェロは逆立ちになる。
姫騎士のアゴへ、足刀で蹴り込んだ。
「ぐああああ!」
えびぞりに、クッコ姫がのけぞる。そのまま地面に倒れ込む。
勝った。しかし、王子の手助けがなかったら。
「見事だ。さすがにオレのヨメである。姫騎士もナイスファイトだZO」
ジュライ王子が、大声でチチェロとクッコ姫を称える。
二人して、「おえええええええ」と虹色の魔力を吐き出した。
こうしてチチェロは、王子とともに、無事に卒業を迎える。
だが、チチェロの旅はここから。
父である勇者の、手伝いをするために。
卒業したら、王子の元から去らねばならない。
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