第9話 ダンジョン攻略の後は、愛妻弁当DA❤ZO

「ふむ、気を取り直して、食事にしよう」


「ジュライ王子は、元気ですね。あれだけ言霊を使用したのに、ピンピンしているなんて」


 青ざめた顔で、チチェロがレジャーシートを地面に敷く。


 シートは日本だとゴザとかビニールである。

 異世界だからか、シートは布製だ。


「おお、リクエスト通りの品だな」


 お弁当は、爆弾おにぎりである。



「王子、それを食べますの? もっとサンドイッチとか、おしゃれな品をご用意するものかと」


 縦ロールお嬢様が、ランチをたしなみながらこちらを観察していた。

 ちなみに彼女のグループは、アフタヌーンティーセットである。しかもテーブルと椅子まであった。


「キミたちみたいなお菓子ばかりのメニューだと、お腹が空いてしまうのだよ。ガッツリしたものがほしいのだ」


 炭水化物ばかりなので、脳に満腹スパイクがかかって眠くなってしまう。が、それでも食いたい。


「わかるぜ、王子。男はどっしりしたものが食いてえよな」


「初めて、王子に親近感が湧いたぜ」


 男子生徒が、オレの弁当をうらやましがる。

 彼らの昼食も、小洒落た料理ばかり。


「こんなワンパクすぎるメニュー、初めて作りました。お口に合いますかどうか」


「会うに決まってるだろ? 愛妻弁当なんだZO」


「うっぷ……」


 チチェロが、茂みに引っ込んでいった。


「大丈夫か?」


 オレが声をかけると、チチェロは手を上げただけで答える。


「いただきます」

 

 もっしゃもっしゃと、ノリに巻かれたおにぎりにかぶりつく。


「うんま!」

 

 爆弾おにぎりの具材は、卵焼き、ほぐした川魚の身である。

 添え付けのタクアンをボリボリとかじると、また格別なのだ。異世界にお漬物の文化があってよかったぁ。ピクルスがあったからタクアンも行けるだと思って、自分で付けてみたのだ。

 チチェロ特製のピクルスも、最高である。酸味がきつくない、優しい味だ。


「チチェロさん、平民だと思ってバカにしていたけど、こんなの作ってくれるのかぁ。いいなあ」


「オレも、チチェロさんみたいな嫁がほしい!」


 強さがわかったからか、チチェロを呼び捨てにする男子はいなくなった。


「いや、諸君らのメイドさんも、すばらしい食事を用意してくれているではないか。味だけじゃなく、栄養のバランスまでしっかりと考えている。主のために作っている弁当なのだ」


「だな! ありがたくいただくぜ」


 オレが告げると、男子生徒たちもメイドさんの評価を改めたようだ。


 うんうん。いいことだ。


 しかし、メイドさんは主人を差し置いて、木陰に引っ込んでしまったが。

 

「チチェロさん、すごいっスね。めちゃくちゃうまいっス」


 フゥヤは、爆弾おにぎりをおすそ分けしてもらっている。


「ありがとうございます」


「でもジュライ王子、いいんスか? ボクまで幸せのおすそ分けをいただいて」

 

 フゥヤの弁当代は、オレが出した。


「遠足当日は、仕出しを買うから」というフゥヤに、「あなたの分も作る」と、チチェロが自費でおにぎりを作ろうとしたのである。


「遠慮するでない。チチェロの学友は、オレにとっても学友だ」


 主たるもの、侍女が懇意にしている友だちの弁当代を出させるわけにはいかん。

 これで仲良し。万事OKだ。


「王子って、マジそういうところ、イケメンなんスよねえ」


「人として、当然だろ。イケメンなんかではないぞ」


「でも、そうそうできることじゃないっスよ」


 だとしたら、貴族はあまり使用人には金をかけないのか?


「キミは、侍女を連れていないんだな?」


「そうっス。寮生活なので、基本は一人暮らしっス」


 ネクロマンサーの、訓練なんだそうだ。

 使用人はスケルトンで代用するように、王族からは指示されているらしい。

 ネクロマンサーは、寝てるときでさえ配下ミニオンを操れなければならないという。


 さすが、魔王の領土にもっとも近い国だ。面倒な一族である。


「料理はできないんだな」


「スケルトンには、舌も胃袋もないっスからね」


 いつもは、栄養補給のマジックポーションゼリーばかりなのだとか。


「ならば、うちから登校すればいい。客間は空いているぞ」


「ええ!? いやいやいや! そこまでしていただくわけには!」


「寝ているときでさえ、狙われるなんて、よほど安心して眠れていないんだろう? ならば、チチェロと共に就寝すればいい。その方が、チチェロも客間で眠れる」


 オレが何度言っても、チチェロは「使用人室で寝る」と言って聞かない。


「そ、それは、王子が自分の部屋で添い寝しろって言ってくるから……」


 チチェロが、頬を染める。



「どうして遠慮する必要がある? チチェロはオレの本妻だ。拒否権はないとは言わんが、比較的自由に過ごす権利はあるはずだ。ぜいたくしても、バチは当たらんだろ」


「当たりますよっ! もう……」


 オレタチのやり取りをみて、フゥヤはウンウンとうなずく。


「事情はわかったっス。では、ありがたくお部屋でおやすみさせていただくっス」


「よいのか?」


「このままだと、チチェロさんは一生ふかふかベッドで寝ないっス。だったら、その口実を作ってあげるっスよ」


 フゥヤの心意気、すばらしいな。


「でも、わたしが緊張してしまいます」


「どうってことないっスよ。毎晩パジャマパーティするっス」


 そうすれば、次第に眠くなってくるだろうとのこと。


「それがいい! ぜひそうしてくれ。あー。これでチチェロを、温かい布団で寝させることができるぞ」


「ホントに、心根だけはイケメンなんスよねえ、王子って」

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