第2話 乳母がリバーズしたZO

 こうしてオレは、ミケルセン王国の第九王子「ジュライ」として転生リバースした。


「はい、ジュライ坊ちゃま~。お乳の時間ですよ~」


 乳母のニューデッカさんに、抱きかかえられる。

 ニューデッカさんは、オレを片手でひょいと持ち上げた。

 

 乳母といっても、30代くらいだ。まだ産める(コラ。

 スレンダーな母と違って、こちらはふくよかな女性だ。


 ドルン、と、惜しげもなく胸をオレにさらす。

 相変わらず、迫力がすごいな。


「ジュライ王子ってかわいいんですけど、お乳をあげるときにちょっといやらしい目になるのが、苦手なんですよねえ」


 ニューデッカさんが、ひとりごつ。


 まあ中身が、恋愛経験どころか女性と接する機会がなかったおじさんだからね。

 そこは、勘弁してくれい。


 オレが乳首を吸うと、ニューデッカさんがブルッと震えた。小さく息を吸って、ため息をつくように吐き出す。

 

 おっぱいを吸いながら、これまでわかったことを反芻する。


 オレの上には、八人の兄貴と二人の姉がいるらしい。

 みんな、小さなオレを慕ってくれている。

 長男は後を継ぐのが決まっているし、既に孫もいた。孫はオレより、一つ上である。

 次男は、別の国の王様だ。

 長女は最近、南の国の王様の元へ嫁いでいった。


 で、この乳母は「ニューデッカ」さんという。

 王妃である母に仕える侍女で、主にオレの母乳担当だ。

 母も一応、乳は出た。だが、出たのは初乳だけ。やはり高齢出産では、ムリがあったようだ。まだ産めそうなのに(コラ。



「チチェロ、あなたもどうぞ~」


 彼女にも赤ん坊がいて、隣でオレと同じように乳を飲んでいる。

 女の子のようだ。チチェロという名前らしいな。


 毎度のことながら、ニューデッカさんは顔色が悪いな。いつにも増して、汗が滲んでいる。

 城の仕事は、さして激務ではないはずだ。パワハラをするような国ではないし、ニューデッカさん自身の体調に問題があるんだろう。医学とか、あんまり発達していない国みたいだし。


 王国ってのはたいていの場合、勢力争い・跡目争いなんかが主流になってくるはず。

 だけど、ここはそんな世界とはまるで無縁。至って平和であり、気ままな上流階級暮らしだ。

 諸外国との外交も、それなりである。


 ただ、魔王が暗躍しているらしい。

 こんな平和っぽく見える世界でも、魔王っているんだな。


 有事に備えて、我が国は魔法学校なども設立している。

 優秀な人材を国内外から集めまくって、育てまくっているそうだ。

 魔王の領土からは、一番遠い国なのに。


 で、勇者を募っているらしいが、なかなかそれっぽい相手は現れないんだとか。


 まあ、そんなにポンポン生まれたら勇者じゃないよね。

 

 オレが大人になってハーレムを結成したら、勇者なんて産ませ放題でしょ(コラ。


 ニューデッカさん、オレの横、空いてますよ(ポンポン。


「ウッ!」


 突然、ニューデッカさんが口を抑えた。

 オレと自分の娘をベビーベッドに戻す。


「オロロオロロロロロロッロ!」


 流しまで駆け寄り、思い切りリバースした。


「坊ちゃまの思考が、直接脳内に来ましたね。第二次性徴を迎えたばかりのジュライ坊ちゃまに、種付けされるイメージが飛んできました。想像妊娠でしょうかねぇ?」


 ちょっと待て。オレの思考を読んだのか、ニューデッカさんは。


「子ども思考じゃないですね。まるで、中年男性のよう」


 中年男性ですから。


「まあ、ごめんなさいね。気を取り直して、お乳を飲みましょうね」

 

 ニューデッカさんは再度、母乳を飲ませる作業に戻る。

 

「あらあ、思いの外、すっご出ますねぇ」


 彼女の言う通り、乳の出が凄まじい。

 なんだか、彼女の命まで吸い上げているかのように、熱かった。


「あなたがわたしの身体から、悪い病を吸い出してくださったのでしょうかね?」


 そういえば、ニューデッカさんは、チチェロを産んだ辺りで余命幾ばくもないとの噂を聞いたっけ。

 たしか、他の侍女がそう話していた。


 オレが、ニューデッカさんを回復させたのか?

 どうやって? わけわからん。


 母乳を与え終えて、ニューデッカさんが乳をしまう。


 自分の娘をベビーベッドに寝かしつけ、オレの背中を叩く。ゲップを促すためだ。

 

「この坊ちゃま、将来大物になるかもしれませんねぇ」


 オレの背中をポンポンと叩きながら、ニューデッカさんが独り言をいう。


「けぷ」


「はい、よくできました。王子」

 

 ゲップを確認すると、ニューデッカさんは自分の娘に同じことをした。

 

「チチェロ、あなたは将来、ジュライ坊ちゃまの侍女になるんです。しっかり、王子を支えるのですよ」


 チチェロが、ゲップをした。


 ニューデッカさんは安心をして、チチェロをオレの隣に寝かせた。


「ジュライ王子のお眼鏡にかなったら、あなたは王子のお嫁さんになれるかもです。二号さんでしょうけど」

 

 おお、まだ赤ん坊のオレに、将来を約束された許婚が。


……というわけじゃ、なさそうだな。


 オレは王子。チチェロは侍女。

 身分が違いすぎる。

 でも、どういうわけか、オレは彼女と運命を感じずにはいられなかった。


 チチェロは、子どもを作るだけの道具になってしまうのか。


 いや! 


 絶対にオレは、チチェロを幸せにするぞ! 


オレは、隣で横になっているチチェロの手を握りしめた。


 チチェロも、オレの手を握り返してくる。

 

「え!?」


 ニューデッカさんが、オレたちを見て涙を流す。

 

「まあ、坊ちゃま……ありがとうございます」

 


 それはやがて、チチェロが伝説の勇者となったことで証明される――。


 なんてね! そんなわけないか。ネット小説じゃあるまいし。

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