第二章 魔法科学校に入ったら、女子生徒全員がリバースしたぞ

第4話 悪役令嬢を、リバースさせちゃったZE★

「おはよう。チチェロ!!」


 朝食の用意をしているチチェロに、オレはあいさつをする。

 

「お、おはようございます。ジュライ王子」


「その王子、っていうのやめようよ! 今日からクラスメイトだよ! 学校も一緒なんだ。もちろん、家でも一緒だけどね!」


「お、うぇ」


 チチェロが、吐きそうになった。


 ほらあ、想像妊娠しちゃってるじゃん(ぇ。


「オレのことなんて、呼び捨てでいいんだから!」


「そういうわけには、まいりません!」


「いいからいいから。まずは一緒に、食事を摂るところから始めようではないか。オレのここ、空いてますよ」


 オレは、自分の隣の席をポンポンと叩く。


 ニューデッカさんが、娘であるチチェロに対して、首を振る。「いうとおりになさい」という合図だ。


「お恐れながら、失礼いたします」


 うーん、目線を合わせてくれない。


「どうしたんだい? 幼稚舎の頃は、一緒に遊んだ仲ではないか!」


 オレは笑顔で、パンをかじる。


 うん、普通に白パンが普及している世界でよかった。

「異世界のパンは硬い」って、いろんな本に載っていたけど。

 こちらの世界で、食生活には困らなさそう。

 いわゆるフードチートも、使えないけどね!


「わたしのような平民が、しかも侍女の娘が由緒正しきアウグスタフ魔法科学校に入れるなんて」


「なにを言っているのさ? キミには素質がある。幼稚舎の頃から、そうだったじゃないか」


「ですが、他のメイド様を差し置いて、王子と同じ一般魔法学科を受けさせてもらうなど」


「それだけ、キミは強いってことさ。頼りにしているんだよ、チチェロ。周りの意見なんて気にせず、オレのために強くなってほしい」


「心得ました。ありがとうございます。王子」



 魔法学校の入学式は、つつがなく終わった。

 

 だが、放課後に事件が。


「ジュライ王子、ちょっと」


 縦ロールのお嬢様が、取り巻きを引き連れてオレを取り囲む。


「あなたは?」


「イヤミンティアと申します。カーゲグッチ伯爵令嬢でございます」


 まあいいや。こんなモブ、縦ロール呼びでいいだろう。


「こちらの方は、侍女ですわよね? どうして、わたくしたちと同じ授業を受けていらっしゃるのかしら?」

 

 初日から、これか。

 この女が俗に言う、「悪役令嬢」というものだろう。

 実際にこんなヤツが、いるんだな。異世界って、面白いね。

 

「ここは由緒正しきアウグスタフ魔法科学校ですわ。平民のあなたが学びにくるところではないの。場所をわきまえなさって」


 チチェロは何も言わない。


「いいたいことは、それだけかい?」


 オレは、リーダー格の縦ロールを睨む。


「な、なんですの、ジュライ王子? まさかこのコを、特別扱いなさるわけ? 冗談じゃない! どうして王家ともあろうあなたが、こんな平民に肩入れなさるのか、まったく理解できませんわ!」


「キミたちには、理解できないだろうね。チチェロの素晴らしさを悟れない段階で、キミたちは負けているんだから」


「なんですって! いくら王子と言えど、聞き捨てなりませんわよ!」


「少なくともチチェロは、世界樹の近くにあるダンジョンの異変を解決させたんだ。実力は推して知るべしだZO☆」


 オレが言うと、「うげ」と、悪役令嬢が口元を抑えた。

 

「なんなら今から、オレがチチェロの凄さについて語ってもいいんだZE。一晩中、MA・KU・RA・MO・TO・DE❤」


「うぶおえええええええええええ!」


 悪役令嬢が、貴族としてあるまじきゲロっぷりを見せた。大衆の面前で。


「おろろおろろろろろろ!」


 取り巻きたちも、滝のように嘔吐する。



「やろう、ふざけやがって!」


「いくら王子といえど、イヤミンティア姫に恥をかかせるとは!」


 貴族の中から、騎士風の男子生徒が、オレに掴みかかってきた。

 その隣には、軍服の男性がいる。オレを掴んでいる男は、この男の部下だろう。


「なんだ? 事実を伝えようとしたまでであろう? それとも、キミ等にもチチェロの偉大さがわからんと見えるが?」


「テメエ、もう許さねえぞ!」


 騎士風の男が、オレの顔面に拳を振るってくる。


 オレはまったく、動じない。顔面を守る防護魔法さえも使わず、平然と構える。

 もしオレを殴れば、正当防衛でこちらに攻撃を行う大義名分ができるからだ。


「おやめなさい!」


 縦ロールの悪役令嬢が、叫ぶ。


「我が妹、イヤミンティアよ! あそこまで愚弄されて、貴族としての誇りはないのか!?」


「平民をいじめることが、貴族の仕事ではありませんわ!」


 さっきまでのイヤミったらしい言動とは打って変わって、縦ロールは凛とした態度を取る。


「チチェロさん、よく知りもしないで罵倒して、申し訳ございません」


「え、あ、あの」


「王子があそこまで、あなたを慕っていなさるもの。自分の身を犠牲にしてまで。そんな方が信頼なさる女性ですもの。きっと、真実に違いありませんわ」


 なんだ? 憑き物が取れたみたいになってるぞ。


 女子心となんとやら……は、恋愛の傾向が変わるって意味か。

 

 ともあれ、縦ロールがチチェロを敵視しなくなったようでよかったよかった。


 でも、縦ロールは別に気にしなくても、一晩中チチェロのいいところを教えてやったのに。手取り足取り(コラ。

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