第17話 卑劣なサキュバスを、リバースさせちゃうZO❤

「図星だな。あんたはチチェロには、おしとやかな娘に育ってほしかった。血を流すのは、自分だけで十分だと。そこに、自分を探して魔王に掴まっちまった娘を見た。自分の庇護すべき対象が、眼の前に理想形として現れちまった。違うかい?」


 

「戯言を聞くんじゃないよ! パッパ!」


 サキュバスが煽り立てる。


 だが、オレはやめない。


「けどな、それはあんたのエゴさ。チチェロはずっとあんたを慕っていた。あんたを誇りに思っていた。それは止められん」


 現にチチェロは、強くなっている。


 チチェロはずっと、父親の背中しか見ていない。

 

「断言する。今あんたが剣を交えている少女こそ、本当の娘の姿だ。認めろよ。あんたの娘は最強になってあんたの眼の前に立っているんだぜ。あんたが一番、望んでいなかった形に! あんたと同じ、最強にな! もうチチェロは、自分で自分を守れるんだよ! 親父さんの技を受け継いで」


 剣を持つ、勇者の手が震えている。戸惑っているのか。


「わたしの言う事を聞くんだよ、パッパ」


「口を閉じていろ。NI★SE★MO★NO❤」


「う、うええ」


 オレが圧をかけると、サキュバスは口を抑えて黙り込んだ。


「本物のチチェロは、口調だっておしとやかでたくましいんだZO★ お前みたいに、Sっ気全開で呼びかけるのも悪くない。でも、それならチチェロじゃなくてもいいんDA❤」


 さあ、あとは自分で始末をつけろ。チチェロ。


「おおお!」


 チチェロが、兜の眉間に剣を突き立てた。


 兜に、ヒビが入る。


 ガシャンと、兜が割れた。


 兜の他に、コツンとなにかが地面に落ちた。


 

「これは、ワイヤレススピーカー」


 どうして、「ファンタジー世界に似つかわしくない代物」が。


「なるほどな。そういうことか」


 耳に直接呼びかけることで、相手を操っていたのか。



 なんとなくわかってきた。

 なぜ女神が、オレをこの地に招き入れたのか。

 あと、魔王の正体とかも。


「くっそー。結界も剥がれてしまったか!」


 なんの攻撃も与えていないのに、サキュバスが勝手に吹っ飛んでいる。どうもヤツの魔力は、兜に集中していたようだ。チチェロが破壊したことで、魔力が逆流したのだろう。


「さて、反撃開始だ」


 オレはワイヤレススピーカーを、倒れているサキュバスの耳に差し込んだ。

 

「なにを!?」


「知れたKO★TO❤  オレの美声を、直接耳に流し込んであげるのさ」


 ワイヤレススピーカーに、オレの魔力を注ぐ。


「いぎいいいいい!」


 サキュバスが、耳に手をかけようとした。


 だが、オレは拘束魔法でサキュバスを金縛りにさせる。


 その間にも、オレの「おじさん構文」で、サキュバスに魔力的ダメージを与え続けた。

 


「やめてやめてぇ!」


 サキュバスが、泣き叫ぶ。


「だーめ❤」


 今までさんざん、人の心を弄んできたんだ。

 次はお前が、心を乱される番だろ。


 オレは、精一杯の言霊を送り込む。

 

「おえええええええええええええええええええええええええええ!」

 

 サキュバスはうずくまり、嘔吐した。すべての魔力を吐き切り、気絶する。


 人一倍洗脳力が高い分、自分でやられるのは弱かったか。

 

 

「おお、チチェロ」


「お父さん!」


 チチェロと勇者が、抱き合う。


 だが、勇者は膝をついた。

 長年の疲労が蓄積していたのだろう。

 

「みんな。城から出ろ。ここは、オレ一人で行く」


「ムチャだ! 一人では危険だぞ」


「勇者を死なせるわけにはいかん」


 とにかく、休ませないと。


「ご心配には、及びません」


 サキュバスが、起き上がった。


「まだ、やる気か?」


「いや待て、クッコ姫よ。サキュバスの様子がおかしい」


 背負っていたコウモリの羽根が、天使の翼に変わっている。


「勇者ブレイヴァルト。ワタシの持つ最後の力にて、あなたの傷を癒やして差し上げましょう」


 サキュバスだった女性が、勇者の肩に触れる。


 ボロボロだった勇者の身体が、すぐに回復した。あれだけ傷だらけだったのに。


 なんだというのだ?


「王子ジュライよ。本来の姿に戻してくださって、感謝いたします」


「何者だ、あんたは?」


「わたしは、天使です」

 

 どうもこの女性は、オレを召喚した女神の使いらしい。

 しかし魔王に掴まって、サキュバスにされてしまったという。


 オレが邪悪な魔力を吐き出させたことで、元の姿になれたようだ。

 かなり荒療治だったが。


「ですが、ジュライ王子の力で、元の姿を取り戻せました。ワタシはこれより、天へと帰ります。魔王に力を奪われて、ワタシにはもう戦う力は残っていません。が、あなたたちの無事を祈っておりますよ」


「わかった。気を付けてな」


 天使は微笑んで、空へ帰っていった。


「しかし、ここから先はオレだけで向かったほうがいいかもしれんな。みんなは街へ戻ってくれないか?」


「ついていきます。ジュライ王子」


「頼もしいが、遠慮しよう。お父上のそばにいてあげなさい」


 チチェロが同行を求めたが、オレは丁重に断る。


「魔王はキミたちでは、歯が立たないかもしれん」


「勇者が勝てなかったからか、ジュライ王子」


「それもあるが、やつは別次元の怪物だ」

 

「どういうことだ?」


「やつはおそらく、オレと同じタイプのやつだろう」


 オレと同じ、転生者である可能性が高い。

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